大分トリニータが「総力戦」と銘打って、観客動員もかけて盛り上げを演出する年に１度の試合となった前節のバトル・オブ・九州。熊本は立ち上がりこそ苦しんだものの、札幌戦で相手を上回れなかった球際や切り替え等ベースの部分はもとより、攻守において狙いとする展開に持ち込んで終始優位に試合を進め、アンデルソンの加入後初ゴールを守って１−０で大分に勝ちきった。

「リードしてからも守りに入らず、それまでの流れのままいけたことも良かったし、最後の方は皆が身体を張って、キツい中でもすぐ切り替えて戻ってきてくれた」とGK畑実は振り返る。この結果、順位は16位に浮上。プレーオフ圏までの勝点差を10に縮めた。
だが片山奨典は言う。「良かった部分もあったけど、リスクマネジメントの面では課題もあったし、そこは修正しながら、大分との試合でできたことをこれからも続けていくことが、大変だけど大事なことだなと思います」。10日水曜に行ったJFLレノファ山口との練習試合で内容があまり良くなかったこともあり、前節の勝利にも緊張感が弛むことはない。札幌の都倉賢、大分ラドンチッチと、高さと強さを併せ持ったFWに対応してきた橋本拳人も、「残り少なくなって、上に行くには連勝しないといけない時期に入ったので、何としても勝点3を取りたい」と、連勝の必要性とそれへの意気込みを口にする。今節迎える横浜FCのゴールを守るのが、昨年までの４シーズン、熊本の守護神として君臨した南雄太であることも、尚のことその気持ちに拍車をかけている。

横浜FCとの前期対戦は６節。この試合では、養父雄仁から片山とつないで左サイドを突破。最後はニアに走り込んだ齊藤和樹がファーに流し込んで決め、１−０で熊本が競り勝っている。ただ、横浜FCも前節対戦した大分同様、シーズン序盤とはチーム状況が異なる。17節の長崎戦で敗れたのを最後に、前節の群馬戦まで７勝６分と実に13試合負けなし。リーグ戦が後半に入った22節岐阜戦から４連勝するなど着実に勝点を積み重ね、前節の勝利で９位に浮上してきた。前節までの数字を見れば、失点の少なさでリーグ３番目と、特に無失点試合が増えているのが顕著で、山口素弘監督が志向するタフに粘り強く戦う姿勢が結果につながっている。加えて特筆すべきはフィニッシュ精度の高さ。シュート数で相手を大きく上回るケースは多くないものの、決定機を確実にモノにして勝ちをたぐり寄せている。プレーオフ圏を射程圏内に捉えて臨む今節はDFドウグラスが出場停止明けで戻ることもあり、横浜FCにとっても、しっかりと勝って勝点3を加えたい一戦であることは間違いない。

相手もアグレッシブにプレッシャーをかけてくることを踏まえれば、「前回対戦でもいい入りができたし、今節も入りが大事になる」（橋本）のは明白。それと合わせて求められるのは、「局面をどう理解するか」（小野剛監督）ということ。前節の大分戦では相手の高さに臆せず全体を押し上げることによってその強みを抑えることに成功したが、今節も、ピッチの上で起きている状況をどう捉えるかが重要になる。
「相手がプレッシャーをかけてくるのは、確かに難しい状況になる。ただ、そういうところにこそチャンスがある。その中でしっかりした判断ができれば」と小野監督も言う。攻撃に関しては、相手のラインの背後をシプルに狙う形が多かったシーズン前半から、徐々にボールを握って動かす時間も増え、札幌戦、大分戦でも縦パスを打ち込むことで相手を食いつかせる場面が見られるようになり、バリエーションが広がってきた。小野監督が常々、シーズンを通して成長し続けることが大切だと話している通り、これからの試合ではそうした形をうまく使い分けることも必要。お互いがプレッシャーをかけ合う中、いかにそれをはがしてボールを運んで行くか、そのための判断と、イメージやタイミングの共有という部分でのチームの成熟度が問われる。もちろん、「そこで上回らないと僕たちの良さが出ない」と片山が話す１対１の局面での勝負も含め、全員がしっかりハードワークすべきことは言うまでもない。

「相手が負けていないとかいうことより、大事なのは自分たちのこと。先制して、しっかりこっちのペースに持ち込みたい」（高柳一誠）。
浮上をかけた一戦は、自分たちの信念とスタイルを貫く熱さと、冷静な判断が勝敗を分けるポイントだ。

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2014.09.13 Reported by 井芹貴志