高橋泰選手は“いい人”だ。友人の彼氏や彼女を紹介されて「いい人そうだね…」と言葉を濁すことがあるが、そうではなく本当に“いい人”なのだ。高橋選手と接したことのあるサポーターやメディア関係者は誰もが「すごくいい人!」と口にする。サポーター思いで優しくて、心配りが行き届いていて実直で…。なぜ、こんなに“いい人”なのか。それは、高橋選手がこれまで数々の苦難に直面しながらも、それを乗り越えてきた“経験と強さ”があるからに違いない。
1980年に生まれた高橋選手。サッカーを始めたのは「3〜4歳頃かな。兄が2人いて、兄にくっついてサッカーっていうか遊びの延長だった」。やんちゃな三男坊は、小学生時代はDF、中学生時代はMFとして活躍し、サッカーの名門・帝京高校へと進学する。そして高校2年の時、現在のポジションであるFWに転向。ストライカーとしての天性の才能を開花させ、第77回全国高校サッカー選手権大会では3得点をあげて、帝京高校を準優勝に導いた。高校卒業後は、J1の広島に加入。リーグ戦24試合出場6得点という結果を出し、Jリーグ優秀新人賞に輝く。
順調に思えた高橋選手のプロサッカー生活だが、2003年、チームはJ2へ降格し、高橋選手は大宮へと期限付き移籍。2005年にはJ1(当時)の千葉へ完全移籍するもリーグ戦出場は、わずか1試合。来季の契約はないことをクラブから告げられた。
「それまでオフシーズンには次のクラブが決まっているって状況だったんですが、この時はそれこそ本当に行くクラブがどこにもなかった。まだ25歳と若かったので『この歳でサッカーを辞めなければいけないのかな』って。あの時がこれまでのサッカー人生で一番きつかった」
不安で押し潰されそうな中、声を掛けてきたのが当時JFLに昇格したばかりの熊本を率いる池谷友良監督(現・熊本代表取締役社長)だった。「池谷さんに拾ってもらう形で入って、自分自身も一からのスタートだと思っていた。サッカーをするのが本当に楽しく感じられる毎日で、ピンチではあったけど、ある意味チャンスに変わった。自分にとって、いい転機だった」とこの移籍を前向きにとらえた高橋選手は、2007年JFLリーグ戦34試合出場29得点を挙げるという活躍を見せ、熊本のJリーグ入りに大きく貢献した。
翌年はJ加入1年目の熊本で42試合に出場し、得点ランキング2位となる19得点をマーク、チームを牽引した。そして2009年、福岡に移籍。福岡では、J2からJ1への昇格、J1からJ2への降格、どちらも経験することになる。
「昔は、自分が点を取ればいい、チームが勝てばいいと思っていましたが、昇格や降格を味わうようになって、自分たちのためだけじゃないんだなって感じるようになった。昇格するとサポーターが本当に喜んでくれて、降格するとサポーターも苦しい思いをする。そういったことを経験して、自分たちのためでもあるけれど、人のためにって思うようになってきた」と高橋選手。
サポーター思いの原点は、こんなところにあるようだ。
そして2012年。再び選手生命のピンチを迎える。
福岡と契約満了になった後、次の所属クラブが決まらない。高橋選手は単身でタイに渡りチャンスを求めた。「可能性を探るため、3週間ほどタイに行ってトライアウトなどを受けた。ちょっとした話はもらったけど契約にまでは至らなくて」帰国。その時、すでに2月中旬。どのクラブも2013年の新加入選手が発表され、キャンプインしていた。
[路頭に迷う感じだった。家族もいるしなんとかしなきゃ、アルバイトでもしようかなって状態でいた時に,愛媛からキャンプ参加の話をいただいた」。こうして愛媛に加入するも、なかなか試合出場はかなわない。「せっかく拾ってもらったのに、試合にもほとんど出ていないし、結果も出せていない。クラブやサポーターに申し訳ない」という気持ちだったと言う。
そんな高橋選手を誰よりも必要とするクラブがあった。Jリーグ入りを目指しながらも得点力不足に悩んでいた讃岐だ。熊本時代にヘッドコーチとして高橋選手を見てきた北野誠監督が声を掛けた
「『JFLだけどやらないか』と。僕も愛媛では全然チャンスがない時期でしたし、監督に誘われるって重要なこと。僕にとって、すごく大きなチャンスだった」
2013年7月、讃岐へ期限付き移籍。「これまでのクラブで昇格の喜びを知っているから、讃岐でもう1回っていう思いもあった。自分がピッチの上で何かができることを示したかった」との思いを、途中加入ながら10試合出場7得点とピッチで爆発させる。さらにJ2・JFL入れ替え戦2試合では2得点を挙げ、讃岐はめでたくJリーグ加入を果たした。
「よくサポーターは12番目の選手って言われますけど、その通りだと思う。サポーターの数が多ければ多いほど自分たちのテンションも上がるし、声を掛けてくれれば自分たちの発奮材料になる。一緒に戦っている存在だって感じますよね」
サポーター思いの高橋選手を応援しているサポーターは多い。先日、高橋選手が出演したあるイベントでサポーターが言っていた。「入れ替え戦の2戦目で高橋選手が点を取った時、高橋選手のことを神様だ!って思いました」。
讃岐サポーターにとって、高橋選手は“いい人”から“神様”にまで昇格(?)していたのだ。
やはり“神様”は、ここぞという時に決めてくれる。
J2リーグ第30節、J2残留を掛けた直接対決となる東京V戦。高橋選手は、途中出場ながら見事決勝弾を決め、20位の東京Vとの勝点差を「4」に縮めた。
今季終了後に「あの東京V戦での勝利があったからJ2自動残留できた…」となれば、高橋選手はますます“神様”としてサポーターから崇められるに違いない。そうなることを心から願いたい。
「残留というのが、今季はもう切っても切れなくなってきてしまった。それに向けて、得点はもちろん、自分がピッチに入った時の役割がチームの考え通りにできるかが重要。あとは、北野監督は試合ごとにいろいろなことを考えながら準備してくれる。それに向けたチームの方向性を年齢が上の僕たちがまとめていけるような、誰かが違うところを向いていたらそれを正していけるような、そんな雰囲気のチームを作っていきたいですね」と今季の目標を語ってくれた。これまで有言実行だったように、わずかになってきた今季の残り試合も頼みましたよ、“神様”!
以上
2014.09.11 Reported by 中條さくら(オフィスひやあつ)
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