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【第94回天皇杯 ラウンド16 北九州 vs 甲府】レポート:甲府にとって悔しい結果。ベストメンバーの北九州が粘りの戦いで120分をラブゲームで凌ぎ、PK戦で天皇杯ベスト8進出を決めた(14.09.11)

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J1リーグの立ち位置が15位の甲府とJ2リーグの立ち位置が4位の北九州。それぞれのカテゴリーで下から4つ目と上から4つ目、シュート数が多くても決められないチームとシュート数は少なくても決められるチームと、カテゴリーを挟んで対照的な現状。新スタジアムが完成するまでJ1ライセンスが付与されない見込みの北九州は中3日でリーグ戦があってもベストメンバーだったが、中2日でリーグ戦がある甲府は8月27日に加入が発表されたキリノの戦力化を促進するために、攻守でそのしわ寄せが出ることを覚悟でキリノを先発させた。アル・シャアブ(UAE)との契約が終わった今年の2月から8月までサッカー選手としての生活をしていなかったキリノを戦力化するには時間がかかることだが、城福浩監督は時間限定でキリノを先発起用するという決断を下した。現在15位の甲府のJ1残留のキーマンになると期待される選手だし、ここ最近のC大阪(16位)や大宮(17位)の状況(監督交代や補強など)を見れば、甲府が15位をキープすることはかなり厳しいと誰でも分かる中で、キリノの戦力化を急がざるを得ないという判断。

キリノをワントップに置き、その下にクリスティアーノとジウシーニョを並べる甲府。この3枚のコンビネーションも高めたいという意図もあったと思うが、まだコンディションが充分に整っていないキリノが安全第一の精神でプレーする中、クリスティアーノとジウシーニョはいつもは見せないような頑張りで守備をし、声も積極的に出していた。ただ、この2人が頑張りすぎてシャドーのポジションから大きく外れることが多くなると、マイボールになったときに攻撃が形にならない。そうなると、先発メンバー12〜13人にほぼ限定されている北九州の連携の取れた攻撃にさらされる時間は長くなる。ただ、甲府の守備のブロックの外でボールを回されることはそんなに怖くはないが、北九州は少ないチャンスに決めてリーグ戦で躍進し、天皇杯でも横浜FMを破ってきたチーム。「怖くはなかった」とうそぶくことはできない。実際に、シュートに至らなくてもその雰囲気を見せた場面はあった。

甲府が主導権を持つ時間帯になっても、「これも北九州の耐えてカウンターを狙うというパターン」と思うとなんか安心できない前半だった。安全運転のキリノが何本かシュートを打って、頼りになりそうな片鱗だけは見せたが、3−4−2−1のワントップが安全運転ではチームとしてはなかなか厳しい。これを覚悟でやっているのだから、こんなもんだと思って見ていたが、キリノのコールが妖怪ウォッチのメロディ(ようかい体操第一)だったのは面白かった。最近は集客が伸びずに苦戦しているので、アリな素晴らしい選択。いっそうのこと、ヴァンくんウォッチでも売り出して、どさくさにまぎれて儲けるというのもアリかもしれない。で、「ようかい体操第一」のキリノは、もっと良くなるだろうという雰囲気を個人として見せたが、キリノのリスクがある中で甲府はチームとして前半の終盤に何度かミドルシュートで決定機も作り、それが決まらないといういつものプレーはできていた。北九州も失点さえしなければ、時間とともに勝つ確率が高くなる。つまり、甲府も北九州も0―0で悪くはないという前半だっただろう。今流行りのテニス風にいえば、ラブ・オール。キックオフ前に甲府のゴール裏が、「ジョーフク、コーフ」のコールをしてくれたので、気分はオール・アバウト・ラブなままハーフタイムを迎えることができた。

ハーフタイム、山梨県サッカー協会の音楽通の人が選んだ曲なのか、スピッツの曲を聞きながら後半の展開をあれこれ考えたが、甲府は勝てる流れにはいた…と思う。後半頭からスタートポジションを5−3−2に代えて、キリノに甲府のツートップも15分間だけ経験させることもできた。機能はしなかったけれど…。ウイングバックのジウシーニョと下田北斗をもっと活かしたいというのが狙いではあったが、北九州のサイドバックもなかなか知らん顔はしてくれないので、精度の高いクロスを入れない限りは決定機は生まれない。甲府にはそういう精度を持った選手は少なく、その一番手の水野晃樹はケガからまだ完全復帰していない。キリノに代えて石原克哉を投入してからは、クリスティアーノをワントップに上げていつもの攻撃ができるはずだったが、いつもの攻撃は最近点が取れていないので、いつもの攻撃はできていた。

北九州の柱谷幸一監督は64分にジョーカーの渡大生を投入する。この交代を見たときに、北九州の勝ちパターンの交代だと思ってしまった。流石に12〜13人の選手をほぼ固定して戦ってきている理解度の高さを感じさせられた。公式記録のシュート数にはカウントされない攻撃でも、もう1本繋がっていれば決定機になっていたという場面もあった。ただ、甲府はそれでも北九州に勝たないといけない内容。柱谷幸一監督が、「リーグ戦のことを考えると甲府がメンバーを入れ替えることは理解できるし、予想できた」という趣旨の話をしていたが、北九州の人件費を甲府の人件費ははるかに上回っている。サブの選手が何人か出ようが、キリノが安全運転だろうが、0―0で後半の中盤を迎えれば勝たないといけないメンバー。しかし、決定機に決められず、不用意なクリアが相手に当たってチャンスを与えるなど、攻撃でも守備の判断でも不満に感じるプレーはあった。時間とともにキリノをピッチに戻したくなる展開のまま90分が終わる。終了間際に北九州に決定機があったが、それが決まらずに延長戦に進めてよかったと思うくらいでもあった。

甲府は延長戦の頭から盛田剛平を投入し、北九州は大島秀夫を投入して共に3枚のカードを使いきる。キリノがいる時間帯はエンジンのプラグを1本抜いた冷静さがあったクリスティアーノが延長に入った途端、プラグを戻してしまいエンジンはトルク過多。ボランチのラインまで下がってボールを貰いに行くなどして、ワントップに入った盛田との距離が開いてしまったのは残念な点。そのままラブ・ゲームは続き、甲府は高さを活かしたロングボール攻勢に出るが、北九州は前田和哉を中心に跳ね返す。柱谷監督が、ミックスゾーンで「前田がいなければ厳しかった」という趣旨の話をしてくれたくらい効いていた。結局甲府は押しきることができなかった。そして、PK戦。ブラジルワールドカップを見ても5人のPK戦の中で1〜2回のヤマが来ることは分かっていたが、6人が蹴って2本止められ、1本外せば勝てない。荻晃太が1本止めたのが唯一の収穫。城福監督は会見で「〜PKの順番も含めて私の責任〜」という話をしたが、PKは酸いも甘いも知るベテランのオッサンか超イケイケの若手が蹴った方がいいのかもしれない。柱谷監督が「PKはくじ引きみたいなもの」とは言ったのは救いになるが、上手くいかないときは結果論でいろいろ言いたくもなる。でも、切り替えよう。勝っても負けても次が大事。甲府はいろいろ上手くいかないことが重なっている印象だけど、2007年のJ2降格時、2011年のJ2降格時を思い出してほしい。結果論でモノを言ってチームが良くなることはない。それを言うとすれば、最終節が終わってから。同じ船に乗るJFK甲府の仲間としてポジティブ且つ建設的に週末の鳥栖戦を戦おう。J2優勝を一緒に喜んだ監督ともに、甲府の底力を見せるのはここから。

両チームの関係者の話からの推定だが、人件費では甲府の約三分の一の北九州。この条件でメンバーをほぼ固定することで躍進していることは素晴らしい。J1ライセンスが付与されるのは2年後の見通しだそうだが、北九州にこんなに熱いクラブがあることをアピールできる勝利が今後も続くことを願いたい。柱谷監督は会見では控えめに話してたが、本当はジャンプして喜びたいベスト8進出だと思う。ベスト8のくじ引きで、G大阪の逆の山に入れば決勝進出の可能性もグッと高まる。健闘を願う。

以上

2014.09.11 Reported by 松尾潤
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