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【第94回天皇杯 ラウンド16 山形 vs 鳥栖】レポート:「巧みな戦術に結果的にはまってしまった」鳥栖。「リーグ戦に集中できる環境に…」。「勝つという気持ちを持って…」戦った山形。「今日の気持ちを忘れないように、残りのリーグ戦と天皇杯を戦う」と誓う(14.09.11)

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表題の「 」部分は、試合後の監督会見からの抜粋である。
天皇杯4回戦山形対鳥栖の一戦を振り返るにあたり、勝者の石崎信弘監督(山形)のコメントを引用しながら記述させていただく。
理由は、勝者へのリスペクトというだけでなく、采配の妙、戦術意図、人心掌握など、勝者になるべき老練な思慮がわかるからである。
監督コメントと合わせて読まれることをお勧めしたい。

冒頭、石崎監督は山形の守備でのポイントを指摘した。
「鳥栖の攻撃は豊田(陽平)中心ということで、そこをどれだけしっかりと競ることができるのかということと、セカンドボールをどれだけ拾えるかというところ…」
鳥栖の攻撃スタイルは、最前線のFW豊田陽平にボールを集め、そこを起点に始まると指摘している。
私を含め、鳥栖のサポーターの多くは『それだけではない!』と声を大にして反論したくはなるが、対戦する指揮官が相手チームの最大のストロングポイントを放っておくはずはなく、そのストロングポイントを消す(いやっ、出させないと言った方が適切かもしれない)戦術を用いてきた。
鳥栖がセンターに入れるボールに対しては、CBに入った舩津徹也、石井秀典が必ず競ってきた。特に豊田には石井がマークに入る徹底ぶりである。
そのこぼれたボールに対して、3枚のMFが寄って数的優位を作っていた。
ここまでは、ボールが入ってきたときの初動動作である。
続けて、ボールサイドのサイドDFがフォローに入り、残った3枚のDFはボールサイドにスライドする。
ボールに対して数的優位を作るだけでなく、アプローチのカバーリングとカウンター攻撃にシフトした時のサポートまでも作る意図を見せていた。
結果、鳥栖は中盤でのボール支配ができずに、攻撃の形を作ることに四苦八苦するありさまを露呈し続けた。

鳥栖のストロングポイントを消すことに成功した山形だったが、流れが鳥栖に傾く時間もあった。
石崎監督のコメントからの引用を続ける。
「金民友が入ってきたことと山形の左サイドのキム ボムヨンがかなり疲れたので…」と自ら仕掛けることができるMF金民友の投入が優位に試合を進めていた山形の流れを断ち切った。
試合開始から縦横無尽にボールにアタックし続けたMFキム ボムヨンの運動量も確かに落ちてきていた。
63分に金民友が入り、74分にキム ボムヨンが交代するまでは、石崎監督の指摘通りに「後半の途中は鳥栖のリズム」になっていた。しかし、石崎監督の選手起用で山形に流れを引き戻した。
「そこをうまく小林亮が途中から入って流れを変えてくれた…」と評価したように、DF小林亮が押し込まれていた山形の守備体系を落ち着かせることに成功した。
決して派手さはないものの、ベテランらしいポジショニングとバランス取りでこの時間を耐えることに成功させた。
と、ここまでは守備での対応策で、抜かりのない攻撃での対応も見せている。
小林亮の投入4分後には、個人技に冴えるMFロメロ フランクを最前線に入れた。
守備で落ち着かせ、クリアボールを最前線に渡して個人で突破させる意図である。
結果、鳥栖は山形ゴールに迫っても得点は奪えず、逆にカウンターで危ない場面を作られる結果となった。

そして、試合を決する演出を石崎監督は見せた。
104分にFW萬代宏樹を送り込んだのである。このタイミングも鳥栖にとっては嫌なタイミングであった。
102分に「足を痛めた」(吉田恵監督/鳥栖)DF金井貢史に代わって「左ができるのは彼だけ」(同)とDF坂井達弥を左サイドDFに入れた2分後だった。そのタイミングで前線にパワーを増したのである。
「素晴らしいと思います。萬代らしくなく足で決めたというところで。彼も途中から入って積極的にシュートを打っていましたし、彼の良さである裏への飛び出しというところが出た」と評価した。
鳥栖に守備での連携を図る間を与えずに、高さもあり裏へも飛び出せるFWを最前線に入れたことで、結果、鳥栖は決勝点を決められ山形がベスト8に進出したのである。

鳥栖にも勝機はあった。
63分から入った金民友からの突破で山形ゴール寸前まで迫るシーンは作ることができた。
延長戦に入って、CB小林久晃を最前線に上げるパワープレーも試みた。
しかし、それらも山形の「勝つという気持ちを持って最後まであきらめなかったこと」(石崎監督)を崩すまでには至らなかった。

最後に、両監督の言葉を紹介して結びたい。
鳥栖は、「天皇杯もすごくチャンスがあってチームとして狙っていたのですが、それが絶たれてリーグ戦に集中できる環境になった…」(吉田監督/鳥栖)ことをポジティブにとらえ、残されたタイトルであるリーグ制覇に邁進してほしい。
「何かしらのタイトルを取る」と言って始まったシーズンなのだから。
山形は、「天皇杯でどれだけ勝ってもJ1には昇格できませんが、J1と戦えるのは天皇杯しかありませんので、(中略)今日の気持ちを忘れないように、残りのリーグ戦と天皇杯を戦っていかないといけない…」(石崎監督/山形)気持ちを持ってJ1昇格と天皇杯で打ち破った相手の分までカップウィナーズを目指してほしい。
この試合は、石崎監督が最後まで采配の妙を見せてくれた試合だった。

強者が必ず勝つのではない。
カテゴリーや戦績で勝者が決まるわけでもない。
与えられた試合時間の中で、気力を尽くし、体力を使い果たし、知恵を出し尽くしたものだけが勝者となれる権利を得るのである。
一個のボールを挟んで対峙するサッカー。
最後は、持てる力を“うまく出し切った”方が勝てるのである。
サッカーは、絶対に勝てる戦術など存在しないスポーツなのだから。

以上

2014.09.11 Reported by サカクラゲン
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