2日前に監督交代が行われたばかりのC大阪。激震が走るなかでの、新体制初戦となった天皇杯ラウンド16を迎えたが、J2の磐田を相手に、2−0と完封勝利を達成。しかも、これまでC大阪アカデミーダイレクター兼U-18監督を務め、このたびトップチームの監督にも就任した大熊裕司新監督の初陣では、南野拓実、永井龍ら、育成生え抜きの選手たちの活躍が目立ち、『育成型クラブ』と言われてきたC大阪の、原点回帰の象徴とも言えるような試合にもなった。
山口蛍、藤本康太ら負傷者が相次ぐだけでなく、この試合では長谷川アーリアジャスールも、直前での体調不良により出場を回避。限られた陣容での戦いを強いられたC大阪。試合前日に帰阪し、練習に合流したばかりの韓国代表GKキム ジンヒョンだけでなく、日本代表から当日の10日朝に戻ってきた扇原貴宏も即メンバー入りし、ともに急遽先発。また、チーム最古参メンバーでもある右サイドのスペシャリスト、酒本憲幸が、8月20日の天皇杯3回戦(富山戦)以来、公式戦では5試合ぶりにスターティングメンバーに名を連ねた。
試合では、新体制となったC大阪も、また、直近のJ2第30節岡山戦から7選手を入れ替えてきた磐田も、前半はチグハグさが目立ち、ボールが落ち着かない展開が続いたが、先手を取ることに成功したのは、C大阪。30分、ミスパスから磐田FWチンガに速攻を許したが、シュートがGKキム ジンヒョンの正面を突き、ピンチを凌いだあとのシーンだった。楠神順平がドリブル突破から、ゴール前にパス。これを、南野が相手DFをよく見ながらミドルシュートを放つと、強烈なグラウンダーのボールはDFの股を抜き、磐田GK八田直樹の手が届かない、絶妙のコースに決まった。
その後、C大阪は磐田の宮崎智彦やチンガに決定機を作られるも、キム ジンヒョンの好守などで失点を与えず。前半を1−0で折り返すと、後半はさらにC大阪の勢いが増す。キム ソンジュンに代わって、後半開始からは、大熊監督のC大阪U-18での教え子の1人、プロ2年目の秋山大地が入ると、公式戦デビューとなった若きボランチが、球際での激しいプレーを見せ、中盤が引き締まった。そして、前半からアグレッシブに走り回っていた前線の永井、杉本健勇、南野らも、さらに躍動。すると、64分、C大阪に待望の追加点が入った。「行ったほうがチャンスになると思って、思い切って上がっていった」というセンターバックの小谷祐喜が、右サイドから折り返すと、これをゴール前の永井が、相手DFを背負いながら、強引にターンして右足で決めきった。「長居で、永井がゴールする」を常々目標としていた背番号9。プロ4年目で、初めて、その思いを現実にすることができた。
なおも、C大阪は追加点を取りに行き、69分にはCKから杉本が決定機を得たが、ヘディングシュートはクロスバー直撃でゴールならず。終盤は、松井大輔、フェルジナンドを投入して反撃に出た磐田に押し込まれるシーンもあったが、最後まで運動豊富に走り回り、身体を張ったC大阪は、そのまま完封勝利を達成。普段、ホームとして使用しているヤンマースタジアム長居では、3月18日のACL第3節ブリーラム・ユナイテッド戦以来、約6カ月ぶりの白星となった。
後半途中には、吉野峻光も投入され、一時はピッチに出たイレブン全員が、アカデミー出身(丸橋祐介、扇原、永井、杉本、南野、秋山、小谷)、もしくは、叩き上げの選手たち(酒本、山下達也、キム ジンヒョン、吉野)で締められたC大阪。クラブのアイデンティティを理解した選手たちの奮闘は、未来につながるものになったと言えるかもしれない。「この試合をきっかけにしたかったし、この試合を勝つか負けるか、得点を決めるか決めないかで、次のJリーグを大きく左右すると思っていた」というのは、いまや前線の軸となりつつある、永井。「監督が代わってチームは苦しい状況ですが、このゴールが、自分にとっても、チームにとっても、いいきっかけになったんじゃないかなと思います」と、この試合を、自らの得点を、今後のJ1リーグ戦での低迷脱却にいかしたいところだ。
一方の磐田は、前田遼一をメンバーに帯同させず。チンガ、ポポ、山崎亮平の前線トリオを中心に、速攻で好機を窺いつつ勝利を狙ったが、「今までやってきた組み合わせではないというところで、少しコンビネーションのところに課題が出た」というのはシャムスカ監督。「前半、しっかりと決めきれるチャンスがあったなか、決めきれなかったことが敗因になった」。それでも、この試合で出たポジティブな面をいかすべく、週末の第31節長崎戦から始まるJ2リーグ終盤戦に向けて、サックスブルーは前を向いていた。
以上
2014.09.11 Reported by 前田敏勝
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