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【第94回天皇杯 ラウンド16 広島 vs G大阪】レポート:若者、ベテランに屈す。広島に完勝したG大阪、三冠の希望を残してベスト8へ。(14.09.11)

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19歳になったばかりの川辺駿は、ミックスゾーンで目を真っ赤に腫らしていた。瞳は潤み、言葉は震えた。
「差を感じた」
必死で言葉をはき出した。その言葉が、この試合の全てだ。

G大阪のベテランと広島の若者の間には、大きな差が存在していた。遠藤保仁、今野泰幸、明神智和。日本サッカー界の一時代を築き上げた、Jリーグの至宝といっていい偉大な選手たち。全くさび付かない技術や経験と共に向上する戦術的な能力によって、落ちていくフィジカル能力をカバーしてあまりある。彼らは上手かった。狡猾であり、冷静であり、そして局面の強さも存在した。

森保一監督(広島)と長谷川健太監督(G大阪)、共に「ドーハの悲劇」を経験した指揮官が、連戦による疲労のピークにあるこの戦いに対して、対照的なアプローチを見せた。長谷川監督が直近の試合から入れ替えた6人の選手たちは、金正也を除いて経験豊富な選手たち。一方の森保監督も同じく6人の入れ替えを決断したが、茶島雄介はルーキーで、川辺駿やパク ヒョンジンも2年目の選手だ。宮原和也も最近になって公式戦の舞台を踏んではいるが、まだ18歳。それでも「いつものプレーを見せてくれれば、十分に上回ることができる」と指揮官は、経験の浅い若者たちの爆発を信頼していた。実際にここまで、成果も残してきた。

だが、若さは爆発力と共に不安定さも同居する。立ち上がりの広島は、G大阪の「経験」の前に腰が引けていた。いつもの運動量も乏しく、自分たちからアクションを起こして守備のスイッチを入れる決断力に欠けていた。
長谷川監督は広島対策として中盤の形を少しいじってきた。明神をアンカーに配置し、今野は左に出て、遠藤はトップ下。いわゆるダイヤモンド型の構成だ。そしてベテランたちはおそらく、監督が何も言わなくても、自分たちの「タスク」を理解していただろう。明神は最終ラインの前の門番となり、広島の縦パスや仕掛けをことごとく封じた。今野は中盤だけでなくワイドで仕掛けてくるミキッチとマッチアップする藤春廣輝をサポートするなど、広範囲に動いた。遠藤の自在な動きは広島の守備陣を惑わせた。
30分、右に開いた遠藤に今野からパスが出る。少しタメをつくった稀代のパッサーは、瞬間にギラリと刃を抜いてクロスを入れた。ボールはリンスを経由して佐藤晃大へ。クロスへの予測で後手を踏んだ宮原和也のわずかな遅れを、ストライカーは見逃さない。ダイレクトで放ったシュートはネットを揺さぶった。さらに45分、積極的なプレスからボールを奪ったG大阪は、明神→阿部浩之→今野とつなぎ、人数をかけた攻撃を見せる。一度は宮原が身体を入れて止めたかに思われたが、今野は粘り強くバトルを仕掛け続けてボールを奪いきり、フリーで入れたクロスを佐藤がまたも押し込んだ。仕上げは「結果が欲しい」と苦しみ抜いたストライカーが完遂したが、その起点はG大阪が誇る黄金の中盤だ。
前半の2点が、広島に重くのしかかった。指揮官の檄を受けた後半は盛り返したが、G大阪の余裕を持った守備を突破できず。カウンターから3点目を失った後、皆川佑介が得たPKを自ら決めて1点を返すのが精一杯だった。

技術は間違いない。アイディアもある。だが、広島の若者たちはほとんど、前を向かせてもらえなかった。いい形でボールを奪っても、前を向くやいなや明神や今野にことごとく潰された。プレスに屈し、らしくないミスも出る。「明神さんも今野さんも、フィフティのところでガツッとくる、その強さが違う」と茶島は悔しさを吐露した。
もちろん、責任の全てを若者が負う必要はない。敗戦はチームの問題であり、森保監督は「自分の責任。選手が伸び伸びと力を発揮できるような準備をしてやれなかった」と悔しさに唇を噛んだ。経験のある他の選手たちが若者を助けてやることもできなかった側面もある。
だが「もっと成長したい」と願うのならば、敗戦を自らのものとして受け入れる方が、前進できる。茶島は「チームを代表して先発してピッチに立ったのに。責任を感じる」とはき出した。宮原は「(失点は)自分の寄せが甘かった」と表情をゆがめた。この悔しさが糧となり若者がさらに成長するというのなら、天皇杯というタイトルを逃した完敗劇にも、広島は何とか耐えられる。

川辺が流した涙は、屈辱が激情となってほとばしったもの。そのこと自体は決して悪いことではないし、激しさがなければピッチで戦えない。大切なのは激情が収まった後に、何をやるのか。何を改善し、何を続けるのか。
たとえば久保竜彦や田中マルクス闘莉王、藤本主税らは、激情から冷静になった後、必ず自分を成長させるために行動した。青山敏弘もそうだった。だからこそ、後に「悔しさをバネにした」と語ることができる。川辺駿もまた、そういう男であることを信じている。

以上

2014.09.11 Reported by 中野和也
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