中国地方(島根県)出身のテニス・錦織圭選手が見せたすばらしい健闘に日本中が湧いた。その余韻がまだ醒めない状況下で、広島とG大阪、エディオンスタジアム広島での2連戦が始まる。
両チームともJリーグヤマザキナビスコカップ準々決勝の死闘を制して、準決勝に進んだ。ただ、リーグ戦での調子はG大阪が上。広島は最近5試合で2勝1分2敗・3得点6失点。一方のG大阪は3勝1分1敗・12得点4失点。特にG大阪のエース・宇佐美貴史の爆発はすさまじく、リーグ戦ではここ6試合で4得点。ヤマザキナビスコカップでも2試合連続ゴールと、今や「撃てば入る」という状況である。一方、広島のメリットは守備の再整備だ。J1第18節・鹿島戦での5失点以降、森保一監督が手をつけた守備力強化策が功を奏し、その後の公式戦7試合で完封が5試合。日曜日の浦和戦では2失点を喫したが、セットプレーからの失点はともかく2点目は不運。その後のハードな赤い悪魔たちの攻撃を跳ね返し続けた広島の守備は称賛されるべきものだ。
ただ、両チームともに言えるのが、連戦の疲労である。G大阪は5連戦中4戦目。広島は7連戦中6戦目。暑さと高湿度のこの季節での中2日・中3日の戦いは、選手たちの体力も精神力も、大きな負担を強いられる。「昨年の天皇杯、準決勝で120分+PK戦を戦い、中2日で決勝を向かえる時のような感覚です。本当に選手たちは疲れている」と森保監督は浦和戦後に語っている。
しかも今回は、天皇杯決勝のようにシーズンの最終戦ではない。今季はこれからが佳境であり、現実として中2日でまたG大阪とのリーグ戦での対戦も待っていることを考えれば、ここで潰れるわけにもいかない。広島とG大阪、双方にとってチームの総合力が試される戦いとなる。
その点、広島は厳しい。日本代表に皆川佑介・水本裕貴、U−21日本代表に野津田岳人・吉野恭平が招集され、丸谷拓也は左肩の故障で手術を余儀なくされた。青山敏弘やファン・ソッコらワールドカップ組が復帰したのは明るい材料だが、浦和戦で90分走りきった青山の腰に対するリバウンドが心配だし、ファンはまだ復帰したばかりで先発でやれるかどうかは未知数だ。
広島にとっての浦和との戦いは、どのチームを相手にするよりも球際が厳しく、攻守の切り替えが激しい。「浦和相手だと、身体もアタマも休む暇がない。本当に疲れます」と高萩洋次郎が本音を口にしていたが、それは広島戦後の勝率が極端に悪い浦和とて同様だ。まして、そんな試合が中3日で2試合続いたわけだから、ダメージが残らないはずもない。足を打撲して途中交代を余儀なくされた佐藤寿人の状態も、ここまでの5連戦中4試合でフル出場している森崎和幸の疲労も心配だ。彼らだけでなく、他にも肉体的な厳しさを抱えた選手がいることも確かである。
特にFWのコマが足りないことが厳しい。もし佐藤の出場が難しいとなれば、出場可能なFW登録の選手がいなくなる可能性が高い。負傷で離脱していた石原直樹と浅野拓磨が最近チーム練習に合流しているが、まだ試合に出るコンディションではない。
森保監督は浦和との戦いで高萩の1トップ(実質的な0トップ)を試合途中から試したが、この形が機能したのは2008年のこと。その年のJ1で3位となった川崎Fと天皇杯で戦った時にこの形を試し、見事なコンビネーションで2−0と完勝したことがあったが、その時のシャドーは森崎浩司と柏木陽介。3人が3人とも経験豊富で、やるべきことが何も言わなくても理解できていた。今回、もし0トップ採用であれば、シャドーに入るのは川辺駿になる。U-19代表の司令塔である彼の潜在能力は疑いの余地はないが、絶対的な経験が乏しい。いずれにしても、非常に厳しいチーム状態である。
G大阪も連戦の厳しさは同様だ。レギュラーDFとして第12節から11試合連続リーグ戦出場を果たし、その間の戦績が8勝1分2敗9失点(それ以前の戦績は2勝3分6敗15失点)とG大阪の快進撃を支えた西野貴治がU−21日本代表に招集。リーグ戦とカップ戦が続いた中3日での3連戦全てに先発した選手は9人を数え、疲労の蓄積は疑いない事実。特に遠藤保仁・今野泰幸のベテランMFがフル出場を続けており、4連戦目となる広島戦に出場できるのかも気になる。
森保監督は天皇杯・G大阪戦の試合前日練習を完全非公開とする決断を下した。国際試合での冒頭15分間のみ公開や、施設の事情で報道陣のみの公開などの例はあったが、サポーター・報道陣を含めての完全非公開は就任以来初めてだ。決断した本当の理由は定かではないが、天皇杯に懸ける強い気持ちと、一方でメンバー構成に対する苦慮と、両方の気持ちがあることはおそらく間違いあるまい。3冠のチャンスが残っているクラブは、広島とG大阪のみ。タイトル奪取に向けての大きな山となる直接対決を、見逃せるはずがない。
以上
2014.09.09 Reported by 中野和也
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