90分を通じて少し重苦しさが感じられる試合だった。それは、横浜FC、群馬の動きが悪かったわけではなく、両チームがこの目先の一試合に賭ける思いがぶつかってできた現象だった。その重苦しい状況でも、横浜FCがチャンスを逃さない粘り強さを見せて勝利を挙げた。
重苦しい展開となった理由は、群馬のゲーム戦術によるものが大きかった。群馬は、前節までの2試合で序盤の失点が多く「早くゲームプランがおかしくなっていた」(秋葉忠宏監督)ため、攻撃につながる守備というよりも、まずは跳ね返す守備を心がけた。その入り方が効果を発揮し、横浜FCのアタッキングサードでのリズムを分断することに成功した。20分ぐらいに掛けて、小林竜樹、瀬川和樹を中心に攻撃を仕掛けると、先に決定機を迎えたのは群馬。24分に瀬川のクロスに平繁龍一が反応するが、キーパー目前での右足のシュートはミートできずに枠を外す。逆に30分を過ぎる辺りから、横浜FCがようやくワイドにボールを散らしはじめてリズムを作るようにすると、39分、横浜FCが逆に一瞬のチャンスをモノにする。群馬がクリアボールをボランチに付けようとするボールを、横浜のマツチェラーノこと松下裕樹がカット。そのまま持ち上がりビルドアップに参加すると、寺田紳一から中島崇典にワンタッチで渡り、中島のクロスに横浜FCの選手が4人飛び込む。「子供が生まれたので絶対ゴールを狙っていた」という松下年宏の前にぴたりと合い、その松下年がシュートするが、一度は富居大樹がセーブ。しかし、そのこぼれ球を泥臭く野村直輝が押し込み、横浜FCが先制する。ボール奪取からの流れは非常に鮮やかで、理想的なゴールだった。
ビハインドになった群馬は、後半立ち上がりから点を取るために前半とは異なり、本来のスタイルであるボールを繋ぐサッカーを見せる。そのことにより、横浜FCの側にもボールを繋ぐスペースができる。後半の立ち上がりからシュートチャンスを作ったのは横浜FCの方が多かったが、群馬にもよりゴールに向かったリズムが出てくると、72分、途中出場の金沢浄がシュートを放つ。さらに中盤での守備の要だった安英学が怪我で退くと、群馬の攻撃が加速。79分には、横浜FCの守備が一歩遅れるところを小林が強烈なミドルシュートを放つ。このシュートは南雄太がセーブするが、繋いでゴールを狙う群馬に対して、横浜FCが我慢する展開に。山口素弘監督が「後半はやや押し込まれたので、多少割り切って」と振り返ったように、その中でラインを下げて冷静に守備をする戦い方に変更し、この状況に対応する。最後まで群馬は手綱を緩めなかったが、その攻撃を横浜FCが凌ぎ、目先の勝点3を取り切ることに成功した。
横浜FCは、監督、選手が口をそろえて「苦しい試合だった」と振り返ったが、リズムを握らせてもらえない中でも機を見た攻撃で先制点を挙げる流れは、「勝点3」にこだわる強さを徐々に付けつつあることを伺わせた。第28節の東京V戦も同じような展開で、負け試合に近い試合を引き分けに持ち込むことに成功したが、その際の粘り強さがチームの力となってこの群馬戦の勝利に繋がったと言える。松下年は「こういう試合が最終節に向けて増えてくるので、今日みたいに押し切れる試合ができれば、もっと上に行けると思う」とその手応えを口にした。今後、さらに厳しい試合が続いていく中で、山口監督は「もうちょっとボールに対するプレッシャーを掛けて奪いたかった。目的はゴールすることだったので。そこははき違えないようにもう一回ビシッと締めたい」と細かな注文も忘れなかったが、より先のレベルに向けてこの試合での反省点を潰して、次の目先の一勝へ向かいたい。
群馬は、まずは立ち上がりの失点をなくすという意図をもったゲームの入り方はできていた。また、後半に意図するサッカーを表現できていたのは間違いない。連敗を重ねてしまったが、この試合で確認できた部分を、次に繋げていくことが重要だろう。この試合、チャンスの源となっていた小林竜樹は「もうちょっとボールを握る時間も欲しい。チームとしてもっと徹底していかないといけない」とチームの改善への意欲を述べたが、群馬の良さを状況に応じて出していくことが勝利への課題となる。
重苦しい立ち上がりの中、スコアとしては1-0と最少得点のゲームとなったが、両チームの意図、そしてハードワークを怠らない中での両チームのトライには見所のある攻防が多かった。中身を見れば、次に繋がる、繋げないといけない内容が詰まっていた試合だった。
以上
2014.09.07 Reported by 松尾真一郎
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