「相手とのマッチアップが噛み合わず、後手に回ってしまった」
相手守備のミスをついて前半のうちに都倉賢の2ゴールでホームの札幌がリードを奪いながらも、試合全体を見れば長崎のペース。シュート数に目を向けても札幌の6本に対して長崎は13本。スコアでは札幌が先手を取って逃げ切った一戦ではあったが、内容面については冒頭で記した札幌の宮澤裕樹のコメントが的確に示していると言えるだろう。
この試合、札幌がオーソドックスな4−2−3−1のシステムだったが、対する長崎は特徴のある3−4−2−1。守備時には野田紘史、古部健太の左右ワイドに加えて守備的MFのどちらかがDFのフォローに回り、6人の選手が最終ラインに並ぶ場面がある。かと思うと、攻撃時には逆に両ワイドが一気に前線へと張り出して5トップのような形となる。前方に5枚が並ぶという部分に関しては、J1の浦和や広島に似たやり方と言っていいだろう。
そしてこの場合、最も焦点となるのはその長崎の5トップと札幌の4バックとの攻防だろう。J1では、4バックを基本フォーメーションとするチームでも、浦和や広島と対戦する場合にはシステムを変えて挑むというケースをよく目にする。言うまでもなく、システムを変えて相手と人数を合わせなければ、相手の5トップに4人のDFで対応する形になってしまうからだ。いわゆる“数的不利”の局面が常に発生してしまう。
しかしながら、この日の札幌は基本フォーメーションを崩さずに対峙。言うまでもなく、長崎が攻めてきた場面では5人を4人で見る形となる。長崎の前線は誰か1人が必ずフリーになるというわけだ。
もちろん、片方のサイドにばかりボールがある場合は問題はない。数的優位とはいかないまでも、最低でも相手の攻撃に対して同じ人数で対応することができるからだ。しかし、そこから逆サイドへと展開されるとどうなるか。そう、フリーで待ち構えるオフェンスプレイヤーがいるわけである。
そのため、札幌は普段とは異なる対応を強いられた。奈良竜樹はこう振り返る。
「相手が右サイドから攻めてきた時に、(上原)拓郎くんがボールに寄せても、そこでスライドせずに内側をケアした」
普段の札幌の守り方は、サイドバックがボールホルダーにアプローチした場面では他のDFが横ズレしてスペースを埋めていくスタンダードなもの。それがこの日の奈良はそれをせずにスタートポジションを保ったわけである。その理由はやはり前述した通り、万が一サイドチェンジを許してしまうと、そこには大ピンチが待っているからだ。
ただし、スライドをしないで守るということはボールサイドで相手にスペースを与えるということでもある。実際に、68分に長崎の佐藤洸一が奪ったゴールは、上原拓と奈良との間に生まれたスペースに神崎大輔が入り込んでクロスを蹴ってのもの。奈良も知恵を絞って守備をしていたが、長崎もまた狡猾に札幌の守備の隙を突いてきたわけである。前半のうちに札幌が2点のリードを奪ったゲームだったが、アウェイチームが1点差へと詰め寄り、先の読めない展開へと突入していった。
ここで冒頭の宮澤のコメントに加筆したいのが、「なんとかいいバランスを保ちながら粘り強く戦えた」という部分だ。ご存知の通り札幌は監督交代を敢行したばかり。「プロサッカー選手である以上、選手自身も感じている」と名塚コーチが言うように、イレブンは強い責任感を胸に前節と今節を戦っていた。そしてそのメンタリティは、体を張った守備で表現される。数的不利な局面が生まれても、札幌は粘り強く跳ね返し続けたのである。
そして2−1のスコアのまま試合終盤へと突入すると、札幌は選手交代とともにシステム変更を敢行し、河合竜二をアンカーとする4−1−4−1へチェンジ。河合は主にディフェンスラインのフォローに回り、5バックの形にして相手の5トップを見事にシャットアウトすることに成功している。
試合後に奈良がこう振り返っていたのが印象的だった。
「相手のシステムに合わせた布陣でスタートしていれば、もっとスムーズに対応できていたかもしれない。でも、そうではなく、ベーシックな布陣で対応し、みんなで声を掛け合ってバランスを取りながら粘り強く跳ね返して勝ったところに意味があると思う」
監督交代というと、どうしてもネガティブな作業と思ってしまいがちなもの。しかしながら、札幌は間違いなくそこから粘り強さやたくましさといったプラス要素を見出しているような気がする。次節からはいよいよバルバリッチ新監督がベンチに座ることになるが、残りシーズンの注目チームのひとつになりそうな気配は充分にある。
そして、敗れた長崎のほうにも言及するならば、この試合は決して悲観すべき内容ではないということだ。結果的には札幌の粘り強い守備に阻まれてしまったものの、システムの優位性を生かして何度も相手守備を脅かしていたし、もうちょっとのクオリティもしくは運があれば、結果も覆っていた可能性は多いにある。チャンスは数多く作っていた。「それほどネガティブに捉えていない」という高木琢也監督の言葉も、決して強がりではないだろう。アウェイチームもそれだけの戦いぶりを見せていたことを、忘れずに記しておきたいところだ。
以上
2014.09.07 Reported by 斉藤宏則
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