勝てなかったことを悔やむ気持ちと、負けずに安堵する気持ちが同居する、複雑な心境が両チームに去来する。鹿島はシュート数13対2と圧倒的に相手を押し込んだ前半45分を、F東京は3トップにしてアグレッシブに攻めた後半45分を思えば、もう一つの45分をもっと上手く戦っておけばという気持ちは少なくないはずだ。特に、先に2点のリードを奪っていたトニーニョ セレーゾ監督は会見場に入るなり「泣くよりは笑う方がいいと思います。前半後半で別々のチームになってしまった」と残念がった。
試合は予想外の展開で始まった。前節、平山相太を負傷で失ったF東京だが、それ以外はほぼベストメンバーという構成なのに対し、鹿島は小笠原満男ら主力3人を欠く布陣。加入後初出場となるジョルジ ワグネルがいきなり先発、そしてリーグ戦では前半だけで交代する試合が続いていた梅鉢貴秀が起用されたこともあり、序盤はF東京がペースを握るかと思われた。
しかし、メンバーが大きく変わっている鹿島が、いつもと変わらない内容を見せる。10分、逆サイドにフリーで走り込む土居聖真を見逃さなかった西大伍が大きなクロスを送ると、これを土居がピタリとファーストタッチ。詰める権田修一の股の間を抜けるシュートを決め、幸先良く先制点を奪った。さらに、攻勢を強める鹿島。26分には、曽ヶ端準からのロングキックからダヴィが抜け出し、相手DFと競り合いながらゴールに流し込み追加点。「梅鉢選手は前半は非常にすばらしいパフォーマンスでした」とセレーゾ監督が絶賛したとおり、梅鉢が出色のパフォーマンスを見せ、特に右サイドのカイオと西に、土居やボランチの2人も絡む攻撃で、相手守備を大混乱させていた。
マッシモ フィッカデンティ監督もこうした事態にシステムを変更することでゲームを落ち着かせようとしたが、前線の渡邉千真は孤立してしまい、自陣から押し上げる機会を作ることができない。だが、後半頭からエドゥーと三田啓貴を投入して3トップにしたことが流れを引き寄せることになる。
49分には武藤嘉紀の得たPKをエドゥーが落ち着いて1点差に詰め寄る。さらに70分に鹿島が退場者を出し一人減ったことで完全に流れを掌握。なかなか崩し切れない時間が続いたが、87分、鹿島のDFが処理を誤ったところに渡邉千真が詰め、そのこぼれ球を最後は武藤嘉紀が蹴り込み同点に。さらに攻めるも曽ヶ端準のセービングもあり逆転までには至らなかった。
90分のなかで試合のながらは目まぐるしく変わる。キャプテンマークを預かった柴崎岳が「唯一の救いは負けなかったこと」と言えば、球際で気迫を見せた米本拓司が「負けはしなかったことをプラスに考えたい」と応じる。お互いに、負けないための流れを掴むことはできたが、勝ちきる程までがっちり掴むことはできなかった。
以上
2014.08.31 Reported by 田中滋
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