想定通りにいかないのがサッカー。清水の打ってきた手に一瞬の隙を突かれて7分間で逆転を許した鳥栖が、最後の最後で追いつくという観てる側にはスリリングな展開の試合だった。
想定外の手を打たざるを得ない背景が清水にはあった。「SBに人材が不足して・・・」と苦しい状況を大榎克己監督は試合後に語った。
ケガ人や出場停止が出ては致し方ない。「3-4-2-1でスタートしました。(中略)右だったらヤコヴィッチがずれる、左だったら三浦弦太がずれて絞って4枚にするイメージの守備をしました」と鳥栖の攻撃に対応する戦術は立てていた。そして、「昨日やっただけで簡単にできるとは思っていませんでした。ただ、サッカーの形だけにとらわれるな・・・」とも付け加えていた。簡単に言うと、3人のDFがボールサイドによって守備をし、逆サイドを中盤から一人降りてきて固めるという作戦である。
この清水の取った布陣に対し、鳥栖は徹底的にサイドから清水DFの裏を狙ったボールで崩しにかかった。「長いボールが入ることはわかるので、中盤でセカンドボールを拾うところが薄くなる・・・」(大榎克己監督/清水)ことは想定済み。鳥栖のシュートを前半は5本に抑え、無失点で乗り切った。
清水の想定が崩れたのが56分。鳥栖の右サイドからシュートのこぼれ球を拾ったのがFWノヴァコヴィッチ。味方に落として前線にと考えたパスは、鳥栖のMF水沼宏太への絶妙なパスとなってしまった。身体を反転した水沼は右足を振り抜き鳥栖に先制点をもたらした。出したノヴァコヴィッチも、受けた水沼も想定外だっただろうし、観ている側もまさかの展開だった。ここまでは想定通りの守備を見せていた清水は、点を取らざるを得ない状況になってしまった。ここから、鳥栖の守備陣の想定を超える手を打ってきたのが大榎監督(清水)の思い切った作戦だった。
「もう少し攻撃的に中盤を変える、流動的な動きに変える」(大榎監督)ためにFW村田和哉、DF水谷拓磨を投入した。水谷はこれがJ1リーグ戦初出場。大榎監督の狙いを鳥栖の選手たちは読めるはずがない。自分たちの目で見て、対応策を判断するしかない。鳥栖にとっては、まだ18歳の厄介な若い選手が入ってきていたわけである。大榎監督は7分後に、19歳のMF金子翔太を入れた。彼もまたJ1リーグ戦初出場で、鳥栖にとっては厄介な選手が加わったことになる。7分間で交代カードを使いきった清水が、若い力で徐々に鳥栖の守備を混乱させていくことになった。
GK林彰洋は、「後半に入って行けるところと行けないところが分かれてしまって・・・」と守備でのバランスを欠いたことを指摘した。DF菊地直哉も「交代して入ってきた選手が空いているところに入ってきて難しかった・・・」と清水の選手起用に手を焼いたことを認めた。81分にはノヴァコヴィッチに、88分にはFW大前元紀に決められて逆転を許してしまった。
「全体的に疲労で足が止まった時間帯だった。もう少し選手交代を早くできれば・・・」と吉田恵監督は自身の責任で選手をかばったが、選手だけでなく吉田監督も清水の打ってきた手が想定外で戸惑ったのではないだろうか。
だが、最後の最後に鳥栖を敗戦から救ったのは、「自分がマークしている選手に(点を)入れられた」CB菊地だった。90+3分に、清水のパスをインターセプトしそのまま右サイドにドリブルしてボールを持ち出した。「いいボールが入ってきたのであとはゴールに入れるだけ」とMF早坂良太がゴールに流し込み同点となり試合は終了した。
清水のシステム変更も想定外だったし、交代で入ってきた選手も鳥栖にしてみれば想定外だろう。同点弾を放ったノヴァコヴィッチ(清水)の落としたボールが水沼(鳥栖)に渡り先制点となったところも、そのノヴァコヴィッチにマークを外された菊地(鳥栖)が、高い位置でのインターセプトからゴール近くまでドリブルで運んでのアシストを記録したのも想定外だっただろう。両チームとも、守備での想定外に追われて失点してしまったが、攻撃では監督の起用に応えて、決めるべき人が決めた試合だったと言える。
想定通りにいかないのがサッカー。しかし、偶然の産物で点が取れるほど甘くないのもサッカー。プレーの目的と結果を見据えて戦った選手たちの意図が出し尽くされた試合であった。
足でボールを扱う(手を使えない)サッカー。ボールは一個しかなく、相手のボールを奪わないと攻撃に移れない。そこには、美技もあればミスもある。それをわかっていて味方を信じてプレーする選手たちには、想像以上の判断力と切り替えの早さが求められる。ミスを指摘するのは簡単だが、そこにある意図を読み取るのは、観ている側にはとても難しい。サッカーは、選手目線でしかわからない意図が多く存在するスポーツなのである。
以上
2014.08.31 Reported by サカクラゲン
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