勝点を分け合い、それぞれの順位に変動をもたらさなかったドローゲームに、どのような価値を見出すべきか。両チームの特徴を考えれば、それはやはり攻撃面の内容について、重きを置いて見るのが正しいだろう。そうした観点から見れば、名古屋と川崎Fの一戦は、それぞれの特徴は出た試合と見ることができる。
キックオフからいきなり主導権を握ったのは川崎Fの方だった。キックオフを得て、最初のプレーはレナトの左サイドの突破を選択。リーグ屈指のスピードを誇るレナトにたまらず矢野貴章がファウルで止めてしまい、そのFKを谷口彰悟が頭で流し込んだ。開始わずか40秒ほどの電光石火の先制劇には、西野朗監督も「キックオフから誰もボールに触ることなく、相手にアドバンテージを与えてしまった」とあきれ顔。最初から川崎Fが1点のリードを持ってキックオフしたような展開に、15312人の観客はどよめいた。川崎Fは幸先良いスタートの勢いに乗るようにして前半の序盤を流暢なポゼッションで支配。特に大久保嘉人とレナトのキープ力は、2〜3人のマークをものともせず、味方に時間とスペースを与える大きなアドバンテージとなっていた。それも「回させている意識ではいた」(牟田雄祐)と名古屋は粘り強く対応していたが、中村憲剛と大島僚太という有能なパサーと、小林悠という裏抜けのスペシャリストを擁する川崎Fは効果的な攻めを展開し、名古屋の中盤から後ろの選手を自陣に釘付けにした。
思わぬ劣勢からスタートした名古屋だったが、早すぎる失点の時間帯が逆に良かったのか、守備的な戦いから少しずつ相手の勢いを押し返し、前半の中盤頃からは主導権を回復し始める。武器の一つであるセットプレーなどから徐々に攻撃で良い形を作り始めると、狙いの一つであったカウンターにも鋭さが出てくる。この日の前線は負傷欠場のケネディとレアンドロ ドミンゲスに代わって1トップに川又堅碁、トップ下には玉田圭司が選ばれ、サイドハーフには永井謙佑と矢田旭。玉田や矢田はマークのきついボランチへのフォローに回るなどしてチームに落ち着きを与え、永井と川又はひたすらにゴールを意識したプレーを繰り返した。29分にはそれが実り、同点ゴールが生まれた。相手のロングフィードの跳ね返りが中央の玉田から右の矢田につながると、矢田のクロスはDFに当たってそれたが、永井が俊足を飛ばしてボールをキープ。ルックアップすると、ペナルティエリア中央に空いたスペースに猛然と走り込む背番号32が見えた。永井のラストパスに、川又は滑り込みながらの左足シュートを流し込み、移籍後初得点となる同点ゴールを決めてみせた。
その後、前半はそれぞれに決定機を作り合うも1−1のままハーフタイムへ。明けた後半はまず川崎Fが采配で試合を動かしにかかった。前半は右から實藤友紀、谷口彰悟、井川祐輔と並んでいた3バックを、井川を田中裕介に代えることで「比較的慣れている」(田中裕)という4バックに変更。「ボールをうまく運ぶための整理」(風間八宏監督)と、田中裕を右サイドバックに、左ウイングバックにいた小宮山尊信を左サイドバックに下げ、前線を大久保と小林の純然たるツートップとした。これで大久保が自由に動けるようになり、川崎Fが再びペースをつかんだのだが、いかんせん決定的なシュートにつながらない。64分にはその大久保を起点に小宮山のクロスから小林がゴール前でフリーになるも、合わせきれなかった。後半の川崎Fを象徴するような場面だった。
そして65分、今度は名古屋の西野監督が動く。まずまずの動きを見せていた玉田に代えて、中村直志を投入。FWと守備的MFの交代だけに守りの采配に見えたが、「前から守備をハメていくイメージ。守備的な感じはしなかった」と永井が語るように、前半から狙い続けていたカウンターと前からの守備をより徹底するためのものであり、「練習していた形ではないんですけど、中村憲剛と大島を抑えることが、相手の攻撃を食い止めるために必要」と中村直も積極的に相手ボランチへのアプローチを繰り返した。これが効果を発揮し、以降しばらくは名古屋が試合を支配。しかし試合終盤には川崎Fに決定機を立て続けに作られるなどピンチを迎えたが、田中マルクス闘莉王と楢崎正剛の粘りで失点を回避し、敗戦は免れた。名古屋は後半、大きな決定機を生み出すことはできなかったが、布陣変更で相手の攻撃力を削ぎ、逆転の機会をうかがいながら勝点確保というセーフティな戦いは成功させた。「残り10分で失点してしまう試合が何試合かあったので、直志さんが入ってやるべきことは明確になった」と牟田が話すように、試合終盤を締める戦いを上位の、しかもトップクラスの攻撃力を持つチームに対し完遂したことは一つの収穫と言えるかもしれない。
分け合った勝点1の価値は対照的だ。川崎Fの風間監督は「率直に言って残念でもったいない」とし、エース大久保も「負けと一緒」と結果については切り捨てた。大久保はさらに「なかなか(自分にパスが)当たらないんですよね。ウチの中盤はボールを持ててしまうから。良い時ってもっともっと出してくれる。バイタルは空いていたたけど、回せるからそっちを見てしまう」と、“ポゼッションのためのポゼッション”に陥りがちなチームに警鐘を鳴らした。こちらはあくまで勝ちゲームを落とした印象が強く、到底満足いく結果ではない。
一方で名古屋は順位のこともあり、勝点を獲得するという最低限の目的は果たした。もちろん指揮官と選手の誰も満足などしていないが、早々の失点を自分たちの力で盛り返し、奪い返したことや課題の終盤を乗り切ったことに対するわずかな手応えは得た様子。「前半の戦いは、開始直後のプレーを除けば上手く戦えていた。後半は少しリアクションになりすぎた」と西野監督も采配に対するチームの反応にはおおむね及第点を与えている。
だが、名古屋の反応は少し寂しくもあり、物足りない。過度の要求はできない状況だが、もっと悔しさが欲しい。引き分けは負けも同然、とは口が裂けても言えない状況だが、勝利への欲求を口にすることはできる。「勝ちたかった」という率直な思いが、態度や言動にもっと表れてもいいのではないか。リーグ戦は2週間の小休止となり、次戦は9月10日(水)の天皇杯4回戦となる。相手はJ2で19位に沈む群馬だ。浦和相手にジャイアントキリングを成し遂げたチームだが、名古屋はなおさらに負けるどころか苦戦すらしている余裕もない。川崎Fを相手に何かしらの手応えを得たならば、この10日間で十分な休養とトレーニングを積み重ね、リーグ次節へつながる快勝劇を見せてほしいものだ。
以上
2014.08.31 Reported by 今井雄一朗
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