3月2日、Shonan BMWスタジアムは氷雨の開幕戦となった。前半アディショナルタイムに湘南・梶川諒太が退場、後半には山形・ロメロ フランクが退場して10対10、開幕戦からイレギュラーな展開へと推移した。試合を決めたのは20分、フリーキックからウェリントンのヘディング一発。この1点を追い、後半45分の山形はシュート数10対1と一方的に攻め込んだが、最後までゴールを割ることはできなかった。「湘南スタイルは勝ってこそスタイル」。記者会見場では、曹貴裁監督の言葉が印象的に響いていた。その後、湘南は連勝を14まで伸ばし、15戦目に喫した愛媛戦での黒星がここまで唯一の敗戦、山形は現在まで連勝を果たせずにいる。第29節、首位と10位、勝点34差で再戦する。
山形は第26節で出場停止だったディエゴのトップ下をロメロ フランクが埋め、ディエゴ復帰後のここ2試合はディエゴが1トップ、ロメロ フランクがトップ下の布陣で臨んでいる。「多少僕のパスがズレてても収めてくれる」(松岡亮輔)とくさびが収まり、縦のボールが増えてきたことで攻撃の形はできつつあり、シュート数も増加傾向だ。ただし、この2試合で奪った得点は第27節・札幌戦の2得点のみで、どちらもPKによるもの。前節は松本と互いに守備の集中を切らさない好ゲームのスコアレスドローとなったが、流れからゴールを奪えない課題は持ち越されている。連勝こそないが、8月は負けなし。ホームに首位・湘南を迎える今節で結果を残すことが今後どれほどのプラス効果をクラブにもたらすかは、説明するまでもない。
驚異的なペースで勝点を積み上げ、首位を独走してきた湘南。前節終了後、曹監督はブンデスリーガ・FCケルンのシーズン最少失点記録を引き合いに出し、「要は我々、実は攻撃的にプレーするということが、得点を取るっていうこともそうなんだけど、失点を減らしてるっていうことを同時に狙ってる」と攻撃性と失点数の相関関係に言及しているが、3-2で勝利した第4節・岐阜戦が今シーズン唯一の複数失点ということもまた、湘南の攻撃力の強さを表す指標となっている。
2位・松本との勝点差は15といまだ独走状態に変わりはない。しかし、最近の5試合では1勝4分けと勝ちきれていない。前節は磐田が3-4-2-1を採用し、湘南に「合わせる」戦いを挑んできた。その磐田を前半シュート0本に抑えながら後半早々にカウンターから先制される展開となり、ウェリントンの豪快なミドルで追いついたが同点止まりに終わっている。4分けは1-1と0-0が2試合ずつ。「勝点3を取るためには、2点目3点目を取るというのが我々の永遠の課題であり、目指すべきものであり、 我々は攻撃的な姿勢を緩めないチームということでずっとやってきている」と今度は開幕戦でドルトムントを破ったレバークーゼンを例に挙げながら説明した曹監督。ボランチの菊地俊介も「やってることは悪くないと思うので、いつも言ってますが、最後の精度の部分はまだまだだと感じます」と得点を取るための課題を挙げた。まさに決定力につながるタクトを握っていた永木亮太は復帰までもうしばらくかかりそうだが、この8月には中村祐也、大竹洋平と長期離脱していたメンバーが戦列に戻り、5月に負傷した宇佐美宏和も近々の公式戦復帰が伝えられている。松本戦終了後には遠藤がU-21日本代表で不在となるが、走り続けるだけの人材はそろっている。
山形は4-2-3-1、湘南は3-4-2-1とシステム的にはミスマッチするが、敵陣で多くの時間プレーし、シュート数で上回りたいのは共通のスタイル。そのなかでも縦へのスピード、ボールを追い越す人数などカウンターの精度・密度では湘南が上回る印象だ。その一の矢を抑えられたあとも、次々と矢は飛ぶ。「湘南はボールサイドで数的優位を作ってくる。そこで不利になったら簡単にそちら側を崩されてしまうので、同サイドに人数をかけなきゃいけない」(山形・石川竜也)。湘南は3バックの遠藤航、三竿雄斗もボールを追い越しながら数的優位をつくるため、山形は確実に数的同数で対応したいが、そこでも湘南は逆サイドで必ずフリーの選手がワイドで控えている。山形はサイドチェンジに対してスライドで対応する際はもちろん、クロスが入ってくる際にもマークの把握と受け渡しは確実にできていなければならない。
リスタートを含めた切り換えの早さでも湘南は相手の優位に立ち、攻撃で迷わず縦にボールを動かすプレーで相手を守勢に回し、主導権を握ってきた。山形も今節、自陣に押し込まれる時間は多少なりともあることが予想され、「攻められれば我慢しなきゃいけない」(石崎信弘監督)という割り切りも必要だ。ただ、その時間が必要以上に長くなることは相手ペースであり、山形が得意とするスタイルでもない。「引かないで前から行ったらいい試合になると思うので、楽しみにしてる」とロメロ フランク。「相手は結果が出ていることで対戦相手としては『強い』と思い込んでしまう要因になる。そこをあまり気にしないで、自分たちは絶対やれるんだと受け身にならずにやっていきたい」(山田拓巳)、「相手がどこだろうとシステムが何だろうと、僕たちのやるサッカーは変えない。それはしっかりと、スタジアムに来る人たちに見せたいと思う」(松岡)とチームとしての思いと戦術は一致している。壮絶な切り換え合戦と主導権争いに打って出る覚悟だ。
「受けたらやられる」と同じ認識を持っている石川は、一方で「うちがていねいにつないでカウンターできればいいが、どうしてもイージーなミスが多い」とチームに警鐘を鳴らす。前がかりでミスが発生すればカウンターを受け失点のリスクが高まるばかりか、戻る体力を消耗し終盤にかけての戦い方を難しくする。「イージーなミスは大きなダメージをチームに与えるので、そこは個人個人が意識を高く持たないといけない。切り換えの部分で常に集中してやっていくことは必要」とアラートさを維持する重要性も説いている。
横たわるリスクを打ち消せる正攻法はアグレッシブに戦うこと。ただし、小さなミスや隙さえも失点に直結するもう一つのリスクをも打ち消す必要がある。丁々発止、極度に緊張感の高い90分間が始まろうとしている。
以上
2014.08.30 Reported by 佐藤円
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