それはこれまで何度も見てきた光景であった。流れるようなパスワーク。そして、絶妙なコンビネーションから水戸は何度も愛媛ゴールを襲った。しかし、ことごとくシュートはゴールに嫌われ、頭を抱えることの繰り返し。「前後半通して自分たちのやりたいことができ」(内田航平)ながらも、1点も奪うことができずにスコアレスドロー。これで6試合勝利から見放されることとなった。
「内容には満足。結果には満足していない」。柱谷哲二監督の言葉が水戸の現状を示している。主導権を握りながらも、人数をかけてゴール前を固める相手の守備を崩せずに勝利を逃す試合が続いている。「あとはゴールを決めるだけ」(柱谷監督)。最後の扉の前で足踏みを強いられ、もどかしさが募っている。
ただ、変化がないわけではない。3分には右FKのこぼれ球、難しいバウンドのボールだったが、内田は迷わずに右足を振り抜いた。ボールはゴールわずか右に逸れたものの、その積極性がチームに勢いをもたらした。また28分にはペナルティエリア内に切り込んだ内田からの折り返しを相手を背負いながら受けた三島康平はパスを選択することなく、鋭い反転からゴールを狙った。しかし、これもゴール右に逸れていった。40分には右サイドでボールを受けた吉田眞紀人が中央に切り込み、DFをかわしてシュート。GKがはじいたボールを三島が体を投げ出して押し込もうとするものの、GKに阻まれてしまう。
「本当に点を取りたいという気持ちがあって、その気持ちがプレーに出たんだと思います」と三島が語るように、相手の守備を崩すだけでなく、これまで以上にゴールをこじ開けようとする気迫は見て取れた。だが、点を取れなかった。確かに愛媛の守備は堅かったが、それ以上に「ゴールを決めたい気持ちが強すぎて、シュートを打つ時に肩に力が入っていた」(柱谷監督)ことが大きかった。60分には右サイドを抜け出した吉田眞紀人からのセンタリングを馬場賢治がフリーでボレー。ミートさえすれば決まっていただろうシュートであったが、足を振り抜いてしまい、ミートできずゴールを奪えなかった。また、再びゴール前でDFを背負いながら三島がボールを受けた際、後ろでフリーの吉田が待ち構えていた。しかし、三島は反転してシュートを選択。ボールは左へ逸れていった。「もっと冷静に判断できていれば……」。三島は唇を噛んだ。
またしても現状を打破できなかった。毎年、水戸は夏場に調子を落とし、中位に甘んじている。今年も結果を見る限り、繰り返しつつある。ただ、それでもこの状況を変えようともがき続ける選手たちの姿から希望を感じざるを得なかった。決して後退はしていない。本間幸司は言う。「今は本当にどっちに転ぶか分からない状況で、いい方向に向かえるように力を溜めている時期なんだと思う。今がチームとして変われるチャンスだと思っている。チームメイトを信じて頑張っていきたい」。
そんな簡単に変わることはできない。もがき、苦しみながらも、ぶれずに突き進んだ先に次のステップは待っている。「ジタバタせずに続ければ、必ず結果は出る」と語る柱谷監督の信念に揺るぎはない。自らを信じて進んだ先に、きっと光は差し込んでくる。
リーグ戦では2試合連続4失点を喫していた愛媛だが、20日の天皇杯3回戦川崎F戦で完封勝利をおさめて得た自信は大きかったのだろう。「後ろのバランスを崩されなかった」と石丸清隆監督が振り返るように、水戸の猛攻を受けながらも3バックとウイングバック、そしてダブルボランチがいい距離感を保って対応し、耐え抜いてみせた。なかなか攻撃に出ることはできなかったものの、それでも中3日のアウェイゲームで勝点1を手にできたことは「大きな収穫」(石丸監督)であることは間違いない。この2試合で得た安定感をベースに浮上を目指す。
以上
2014.08.25 Reported by 佐藤拓也
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