天皇杯から中２日で迎えるリーグ第２１節。大宮の相手は、今月８日に尹晶煥監督を電撃解任した鳥栖。昨年、大宮もベルデニック監督を８月１１日に解任しているが、そのときは５連敗中で順位も４位まで落としていた。しかし今年の鳥栖は掛け値なしの首位であり、リーグ再開後も３勝１敗の好成績だっただけに、衝撃は昨年の大宮より大きかった。そして、昨年の大宮がそうだったように、鳥栖はその後リーグ戦で連敗している。「少なからず選手に動揺があると思う」(渡邉大剛)、「こんなに勝ってるのに代えるのかという寂しさがあるはず」(北野貴之)、と、経験者だけに大宮の選手たちには、鳥栖の選手の精神状態がよく分かる。昨年の大宮は、選手がプレーに集中しきれず、歯車が噛み合わなくなりズルズルと負け続けた。大宮が鳥栖にその轍を踏ませるか、鳥栖が自力で跳ね返すか、注目の一戦だ。

リーグ再開どころか５月６日の第１２節以来勝星のない大宮だが、水曜日の天皇杯３回戦では湘南を２−１で破った。「内容が次につながるとかいうより、とにかく勝てたことが気持ちの部分ですごく大きい」と、副キャプテンを務める渡邉はホッとした表情。ただの一勝ではなく、Ｊ２史上最強チームに対して苦しみながらも逆転勝ちしたことは、失っていた自信を取り戻すきっかけになるし、それを出場機会に恵まれなかった控えメンバー主体のチームで成し遂げたことは、「競争も激しくなる。チーム力を上げるためにも良かった」と、キャプテン菊地光将は語る。
そこから中２日でのリーグ戦へ、大熊清監督にとっては難しいメンバー選考を迫られそうだ。泉澤仁や高瀬優孝ら、結果を出した「若い力、勢いをチームに入れたい」(大熊監督)のはもちろんだが、かといって技術、経験、駆け引きなど足りないぶん、「勢いだけではJ1では難しい」のも事実。「若いヤツにはどんどん、そういう機会を逃さずに自信を付けてほしい」気持ちはあるが、現実的に１７位という順位を考えれば、悠長に育てている余裕もない。いずれにしても、「勝点３を取ることが優先順位。その中で、ベテランのほうが上ならばベテランを使うし、ケガや連戦、パフォーマンスを考えて決めたい」と、その判断は当日まで揺れそうだ。

その事情は、鳥栖も似通っている。前述の通り監督交代からリーグ戦２連敗の鳥栖だが、天皇杯３回戦では岡本知剛や早坂良太といった控え組を抜擢し、先制されながらも得意のセットプレーで追いつき、チームとして狙いの形で大分に逆転勝利した。エース豊田陽平が調子を落とし、チーム全体にも閉塞感が感じられるだけに、控え組の高いモチベーションをチームに生かしたいところだ。ただ、豊田の代役として期待以上の活躍を見せていた谷口博之が、大分戦での負傷により遠征メンバーから外れるのは痛手だろう。
吉田恵監督に変わっても、サッカーはそれほど変わってはいないが、采配は攻撃的に変化した。前政権では相手に引いて守られると、クロス頼みの攻撃で崩しきれないところがあったが、ボランチに岡本を入れて４−３−３の布陣でボールを動かす攻撃が新しく形になりつつある。それだけに大宮同様、今は何より結果が欲しい。このまま結果が伴わなければ、ただでさえ選手がプレーに集中し切れない状況に加えて、サッカー自体にも迷いが生じる。昨年の大宮はそうして崩れていった。鳥栖にとって、１７位を相手にするここが一つの正念場となるだろう。

攻防の焦点は、大宮の左サイド＝鳥栖の右サイドになるか。現在の大宮の布陣では、左サイドハーフに富山貴光や泉澤 仁といった、守備の得意でない選手を入れ、しかも攻撃では裏への飛び出しを要求しているため、どうしても守備時にサイドバックのところで数的不利を生じ、クロスからの失点を続けている。湘南戦では中で弾き返せたが、「豊田陽平を信じて入ってくるから、こぼれ球を拾う力もある」(大熊監督)鳥栖に対しては、簡単にクロスを上げさせるようだと、いくら菊地や横山知伸に高さがあるといっても、防ぎ切るのは難しいだろう。また、大宮はこのところ毎試合、セットプレーから失点している。言うまでもなく、藤田直之のロングスローを含めて鳥栖のストロングポイントだけに、大宮としては最大の警戒が必要だ。

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2014.08.22 Reported by 芥川和久