セットプレーなど札幌が優位に立つ面もあり、どちらが勝ってもおかしくない内容ではあった。だが、限られたチャンスを決めきる個の力の存在がどれだけ大きいか。それをあらためて感じさせられたゲームでもあった。
清水は前節からスタメンを3人、札幌は6人を変更して臨んだ試合。平均年齢は、清水:24.0歳、札幌:23.6歳とチャレンジャーの札幌のほうが若く、平均身長ではノヴァコヴィッチがベンチスタートとなった清水が174.8cm、札幌が178.3cmとはっきりした差があった。そして、気温27.2度、湿度84%と非常に蒸し暑い中で始まった試合は、立ち上がりから予想通り清水がポゼッションで上回り、札幌はコンパクトな守備のブロックを作ってスペースを消しながら守り、カウンター攻撃を狙っていくという展開になった。
清水のほうは、本来MFの石毛秀樹が1トップに入り、その下に右から大前元紀、高木善朗、高木俊幸と並ぶ形。高木兄弟が揃って先発するのは、清水では初めてのことになり、前線の4人がいつも以上に流動的に動くというおもしろみはあったが、ペナルティエリア内まで侵入してシュートを打つという形はなかなか作れない。細かいつなぎで中央からも崩していこうという狙いは悪くなかったが、相手の人数が厚いところに手数をかけて勝負にいって、逆にボールを奪われる機会を多くしていたのも事実。
高木俊は「外が空いているのにしつこく中ばかり攻めたという部分があった」と振り返り、大榎監督も「イージーなミスが多く、ボールを失う回数が多くなって、そこから守備に体力を使うという場面が多かった」と攻撃面の課題を口にした。そんな中でも、19分には大前のヒールパスできれいに中央から崩し、高木俊が決定的なシュートを放ったが、これは決めきれない。
一方、札幌のほうは、守備はほぼ狙い通りにでき、攻撃に関しては「前半は(選手同士が)良い距離感があって、ダイアゴナルラン(斜めの飛び出し)で積極的に仕掛けられていた」と1トップの都倉賢が語ったように、カウンターで清水のサイドバックの裏に飛び出して起点を作る場面を何度か作り、清水ゴールに迫る状況も作れていた。
そんな中で獲得した27分の左CKから、菊岡拓朗のキックをニアの奈良竜樹がわずかに触って逆サイドに流し、都倉が頭から飛び込んで、押されていた札幌が先制点をゲット。「(清水は)高さもないし、1人1人(のマーク)がけっこうルーズな感じもあったので、セットプレーはひとつのターニングポイントになると思っていた」(都倉)という狙い通りの先制点。逆に清水のほうは、前節・仙台戦で決勝点を奪われた場面とほぼ同じような失点。高さの差を突かれた形ではないが、奈良がニアでボールに触った後、清水の選手たちは時間が止まったように誰も動いていなかったところなど、セットプレーの守備にはまだまだ課題が残る。
ただ、41分には、札幌のパスミスを突いてショートカウンターを仕掛け、本田拓也の縦パスから高木俊が右にパス。そこで大前が「GKはたぶんそのまま僕が打つと思って詰めてきたから、自分が触らなければGKも触れないかなと思った」と、わざとボールを触らないことによってGKをかわし、無人のゴールに流し込んだ。ここは大前のストライカーらしい冷静さが光った場面で、前半のうちに同点に追いつけたことは、清水にとって非常に大きかった。
後半に入っても、試合展開は大きく変わることなく、両チームとも連戦と暑さの影響による疲労が選手の足を止めていく。その影響がより早く出たのは、中2日で涼しい北海道から猛暑の静岡に遠征してきた札幌ほうだった。誰かが負傷して試合が中断したとき、ピッチ上の全員が一斉に水分を補給しに行く姿が何度も見られるなど、本当に蒸し暑かった中で、清水の攻撃に対して札幌の守備のゾーンが徐々に下がって、前線との距離が前半よりも開き、カウンターも思うように決まらなくなる苦しい展開。それでも後半25分の薗田淳のシュートや、試合終了間際の中原彰吾のシュートなど、惜しい場面もあったがゴールの枠をとらえることはできていなかった。
そんな中で試合を決めたのが、高木善の負傷によって後半27分から出場したノヴァコヴィッチ。清水は終盤まで慌てることなく攻め続けたが、なかなか決めきれない中で、後半45分のカウンターから左でボールを受けたノヴァコヴィッチがドリブルでペナルティエリア内まで持ち込んで右足でシュート。DFを抜ききらずに股間を抜いて放った一発が、左ポストぎりぎりに決まり、清水が何とか延長戦を回避して4回戦進出を決めた。
最後まで粘り強く戦った札幌だが、ノヴァコヴィッチのような選手がいないのはしかたないところ。その差をどうチーム全体で補っていくかという部分が、得点不足に苦しむリーグ戦でも大きな課題となる。もちろん、清水にとっても“ノヴァコヴィッチ様々”と言うべき貴重な90分での勝利だった。
以上
2014.08.21 Reported by 前島芳雄
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