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【第94回天皇杯 3回戦 大宮 vs 湘南】レポート:見せたトップリーグの底力。J1降格圏の大宮、J2首位独走の湘南を退ける(14.08.21)

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昨年、湘南は大宮とプレシーズンマッチと最終節を含めて四度戦い、四度とも敗れている。湘南にとって大宮という名前は、降格の苦い記憶、J1という壁を象徴する存在の一つだったはずだ。J2を圧倒的な強さで独走し、J1昇格が確実なこのタイミングで天皇杯を大宮と戦うことは、湘南にとって、来季をJ1で戦う力が自分たちに備わっているかを問われる、試験のようなものだったかもしれない。実際、曹貴裁監督は選手に昨年のJ1第12節、大宮vs湘南の映像を見せ、「1年2カ月の成長を見せなければいけないと話した」という。
しかし奇しくも2−1、昨年のその試合と同じスコア。昨年の差を詰めるどころか、上回った部分すら多かったが、湘南はまたしても大宮に勝利することができず、天皇杯から姿を消した。

序盤、主導権は湘南にあった。大宮はリーグ戦の新潟戦からスタメン10人を入れ替えており、4人のうち藤井悠太、福田俊介、高瀬優孝の3人が今季公式戦初スタメンとなる最終ラインは、見るからに安定感がなく、ロングボール対応やバックパスでヒヤヒヤする場面を連発した。攻撃でも、「相手のプレッシャーに慌ててボールを蹴る場面は、逆に向こうのほうが多かった」と曹監督が振り返ったように、湘南のアグレッシブな前線からのプレスに大宮は苦しむ。ロングボールは前線の長谷川悠に正確には届かず、収まりどころとして期待されたカルリーニョスもすぐに潰され、泉澤仁も効果的なドリブルを仕掛けられなかった。
ただ湘南も、大宮を圧倒できていたわけではなかった。前線から圧力をかけてサイドに追い込むが、J2なら奪えていたであろうところを奪いきれず、ショートカウンターで一気呵成にゴールに迫る場面は多くなかった。ボールを奪う位置がいつもより低く、そこから前線に上がるスピード、人数に思い切りを欠いた。大宮の泉澤が守備であまり戻らなかったため、吉濱遼平と藤田征也を左サイドバックの高瀬が一人で見る形が多く、フリーでクロスが何本も入ったが、決定機までには至らない。逆に、「失い方が悪くカウンターを逆にやられる」(菊地俊介)ことで、湘南は全体的には優勢に試合を運びながらも、46分にはカウンターから泉澤にポスト直撃弾を浴びるなどピンチも多く、前半のシュート数では大宮6本に対して湘南2本という結果に終わった。

後半、試合は激しく動いた。湘南は相変わらず右サイドで数的優位を作り、高瀬と高橋祥平の間を突いてゴール前を伺う。大宮は長谷川が泉澤のサイドに流れ、二人のコンビネーションから泉澤がドリブルを仕掛けてコーナーキックを獲得するなど、湘南を押し込んでいく。56分、湘南は右サイドを突いて得たコーナーキックから三竿雄斗が豪快なヘディングを決めて先制。その後も武富孝介、亀川諒史が連続してミドルシュートを放つが、いずれもキーパー正面。大宮は65分に増田誓志に代えてズラタンを投入するが、攻めてもフィニッシュまで持ち込めず、逆にゴール前まで迫られる苦しい時間帯が続く。ここで湘南が追加点を挙げていれば、試合は決まっていたかもしれなかった。
その流れから大宮を救ったのが、この日公式戦初スタメンの高瀬だった。「あれだけアップダウンできる選手はそんなにいない」と大熊清監督も認める運動量とスピードを武器に、攻撃では爆発的なオーバーラップで前線へ駆け上がり、守備でもすんでのところを食い止めていた左サイドバックが、大仕事をやってのける。80分、左サイドで泉澤が落としたボールにバックステップを踏んで左足を振り抜く。「それまで速いボールを蹴ろうとしてニアに引っかかっていたので、こすり上げて落とすイメージで蹴った」(高瀬)クロスは、見事な弧を描いて中央で待つズラタンの頭をとらえ、湘南ゴールに吸い込まれた。
そしてその直後、湘南のコーナーキックからのカウンター。ドリブルで中央を駆け上がった高橋は、右サイドを走る家長昭博にパスを出した。が、その後方から駆け上がってきた高瀬が間を割って入り、そのパスをトラップ。「僕へのパスでないのは分かっていたけど、それで相手も引っかかると思った」と高瀬は言う。しかも、そこからもう一段スピードを上げてペナルティエリアに侵入しようとした高瀬を、走力自慢の湘南の選手さえファウルで止めるしか手はなかった。正面やや右、約20mのフリーキック。ズラタンが逆転の弾丸シュートを突き刺し、高瀬の労に報いてみせた。

湘南としては悔しい敗戦だったに違いない。高瀬のスピードと走力、ズラタンという圧倒的な個の力でやられはしたが、内容で負けた気はしなかったのではないか。ただ、全体的には優位にゲームを進めながら、公式記録上は大宮がシュート10本に対し、湘南は8本。J2では一試合平均21.7本のシュートを放っている湘南にしては寂しい数字だ。勢いを持ってゴール前に迫ることはできているが、J2であればシュートまで持ち込めるところを、J1ではそうさせてもらえない。昨年のJ1第12節のマッチレポートで、筆者は『湘南は、決定力不足というより、決定機を作る力そのものが不足していた』と書いたが、それはこの試合でもそのまま当てはまった。結局、奪ったゴールがコーナーキックからの1点だけというのも同じだった。
「正々堂々とプレーしてくれた、選手のパフォーマンスや勇気を讃えてあげたい」という曹監督の言葉も昨年と同じだったが、今年はその後にこう付け加えた。「今日の試合を見ていない人は、やっぱり湘南は最後に逆転されて勝負弱いねということになってしまう。それは俺と選手たちと協力して、覆していかないといけない」。この試合で得た課題を残りのリーグ戦で克服しながら、湘南はJ1への道を進んでいくのだろう。
大宮にとって、もちろんこの勝利は大きい。JFLが相手だった天皇杯2回戦を除けば、大宮は5月6日以来、Jチームから勝星を挙げていなかった。降格危機にある状況で、J2で別格の強さを見せている湘南に勝ったことは、大宮はJ1にふさわしいチームであるという自信となるに違いない。それもこの日は、最後はズラタンや家長昭博の力があったとはいえ、ほとんどをこれまでチャンスを与えられなかった控え組の選手で戦ったことは、競争をもたらし、チームの底上げになるはずだ。
そして何より、サポーターを満足させたのは、この日の選手たちが見せた闘争心だ。控え組が中心だったことで、この日の大宮は今年見たどの試合よりも、率直に言って技術的水準は低かったが、それだけに気持ちは一番入って見えた。右肩脱臼から4カ月ぶりに復帰してゴールマウスに立った北野貴之は、「僕たちは戦ってナンボなので、上手さなんか必要ない」と言い切った。「リーグ戦の残り13試合、上手さよりも戦える選手がどれだけいるか」(北野)、それが残留への最大のポイントだ。その意味でも、やはり大宮にとってこの試合の勝利は大きかった。

以上

2014.08.21 Reported by 芥川和久
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