「素直にうれしいです。心の底からうれしい気持ちでいっぱいです」と試合後に満面の笑みを浮かべて述べた吉田恵新監督。就任後、リーグ戦2連敗を受けての初勝利なので、偽らざる本音である。
一方、「前半はパーフェクト」と褒めながら「後半の頭に失点してしまっていてはゲームにならない」と平静を装いつつも怒り心頭だったのが逆転負けを喫してしまった大分の田坂和昭監督である。
意図した守備で前半をパーフェクトに抑えた大分に対し、意図したカウンター攻撃で逆転勝ちを収めた鳥栖。両監督だけでなく、サポーターも全く同じ気持ちを感じたに違いない試合だった。

前半は、田坂和昭監督の指摘通りに大分が守備で主導権を握っていた。鳥栖がボールを保持すると、ハーフライン手前から4-1-4-1でブロックを作り、鳥栖にボールの入れ所を与えなかった。鳥栖DFがボールを持っている間はその入り所を抑え、鳥栖DFより前にボールが入ると厳しいチェックを掛けてきた大分。この守備ブロックが機能している中で、23分にMF風間宏矢が先制点をあげたこともあり、田坂和昭監督のいう「パーフェクト」な前半だったことがわかる。
しかし、強固な守備ブロックもCKでは通用しない。鳥栖は50分、この日FWで先発した谷口博之のヘディングシュートに詰めたMF金井貢史がヘディングで押し込んで同点とした。
そしてこの後、強固な守備ブロックを解かざるを得ない状況に変えるスーパープレーが飛び出した。55分の鳥栖MF岡本知剛のインターセプトである。大分がDFから一気に前線にボールを送ろうとした瞬間のパスをインターセプト。さらに「岡本がよく見ていてくれました」と逆転ゴールを決めた谷口博之が絶賛した縦パス1本は、谷口博之がゴールに向かってフリーで突っ込むことができる素晴らしいパスだった。

50分に同点ゴールで勢いを増し、55分で逆転した鳥栖。こうなってしまうと、強固な守備ブロックを大分は解かざるを得ない。「天皇杯で格上の相手だが、何とか勝とう」(田坂和昭監督）として前線からボールを奪いカウンターで鳥栖のゴールに迫ってきた。そんな中で、鳥栖の勢いを増すスーパープレーが再び出たのである。
77分、大分が鳥栖ゴールに向かって一気にボールを運び始めた中で、DF丹羽竜平が大分ボールをインターセプト。右サイド前方のMF早坂良太に送り、一気にゴール前にボールを運んだ。ゴール前にはFW豊田陽平が詰め、大分のオウンゴールへとつながった。

試合は、見事な逆転勝ちで鳥栖が勝利を収めラウンド16へとコマを進めた。
この試合で勝負を決定づけた2本のインターセプト。『相手のボールを奪う！』という意識を持ち続けていないといけないのは当たり前であるが、その意識をプレーに変える身体的な能力がないとできないプレーでもある。タイミング、方向、そして瞬時の判断（思い切り）がなければ至近距離で相手ボールは奪えない。意識に加えて、高い身体能力がなければできないプレーが、鳥栖の勝利を呼び込み決定づけたのである。加えて、この2本のインターセプトから直後にゴールが生まれている。奪った後に攻撃へのスイッチの切り替えができるアジリティさがなければゴールまではたどり着けていない。岡本知剛の奪った直後の縦パス1本。丹羽竜平の重心とは逆へのアプローチからのドリブル。ユニフォームを脱げば普通の人と変わらない高さと太さではあるが、バランス感覚と俊敏性を備えているからこそのあのプレーなのである。ゴールシーンを演出した2つのプレーは、今後の鳥栖の戦い方に勢いと自信を植え付けたプレーと言えるだろう。そして、吉田監督の起用に応え、初勝利のお膳立てとなったプレーであった。

相手のボールを奪った瞬間に、守備から攻撃へと変わるのがサッカー。奪った選手がスイッチを切り替えたのち、他の選手が続けてモード変更に入る。このモード変更に時間がかかれば、守備はもろく攻撃は薄くなる。『切り替えを早く』というのは簡単だが、ボールだけを目で追っていてもモードを切り替えることは容易ではない。そこに、切り替わった後に起こりうる状況を予想する力が必要であり、それに対応する実力もなければならない。点と点をつなげて一連のプレーとなるサッカー。ボールとゴールを選手目線でつなげることは、スタンドからはできない。サッカーは、選手判断がプレーのすべてなのだから。

以上

2014.08.21 Reported by サカクラゲン