試合後の両指揮官はそれぞれの立場からの不満を述べた。名古屋の西野朗監督は内容について、対する京都の川勝良一監督は結果について。勝者と敗者の温度差はあったものの、選手に一層の奮起を促したことに違いはない。J1の14位とJ2の7位の対戦は、その順位が示す通り、やや消化不良の90分となった。
陣容もまた、同じような経緯のメンバー選考の手順を踏んでいた。名古屋は登録手続きの関係でレアンドロ ドミンゲスが出場できず、川又堅碁は新潟で2回戦に出場しているため今回の天皇杯での起用は不可。特別指定選手の大武峻は、天皇杯では同制度の適用がないためそもそもの頭数に入っていない。加えてコンディション面を考慮して楢崎正剛とケネディがベンチ外となり、本多勇喜とダニルソン、田口泰士、そして永井謙佑もベンチからのスタートとなった。
京都も同様にドウグラスを登録手続きの問題で欠き、石櫃洋祐は出場停止。J2得点ランクトップを走る大黒将志は週末を見据えてかスタメンを横谷繁に譲っていた。その他体調に不安のある選手は帯同しておらず、川勝監督の言葉を借りれば「思いっきり使いたい選手をたくさん使ったわけではない」メンバーだったが、チャンスを与えられた選手にとっては最高のアピールの場でもある。名古屋の若手はもちろんのこと、京都の高橋祐治などはこれが京都でのデビュー戦。「もうJ1とか関係なく、潰しに行っていた」と意欲十分に臨んでいた。
そうした期待に応え、チャンスをものにしたのは名古屋の面々だ。開始早々の8分に松田力が田中マルクス闘莉王のロングフィードに抜け出し、DF2人を振り切りGKもかわして先制。松田は空中戦でも優位に立ち、ケネディや川又が担うべき高さの面でも存在感を見せた。また中村直志はこの日のチーム最年長としての経験を随所に見せつつ、若手以上に激しく泥臭く中盤守備を牽引した。京都もJ1相手に持ち前のパスワークを展開し、横谷や駒井善成が闘志あふれるプレーで要所を締めたが、いかんせんミスが多く決定機につながらない。京都の狙いは矢野貴章と佐藤和樹の両サイドバック。矢野には山瀬功治を、佐藤には工藤浩平をぶつけて試合を優位に運ぼうとしたが、攻めども攻めども決定的なシュートが生まれなかった。
そうこうしている間に43分にはCKを闘莉王に頭で叩きこまれ2失点目。川勝監督も「前半は『2』という数字を外せば70%くらい満足」と語り、現にシュート数も名古屋3本に対し京都は倍の6本を放つなど押し込んだが、試合は2−0で名古屋がリードして折り返した。
後半も試合展開は変わらなかったが、尻上がりに状態が上がっていく名古屋に対し、京都は単純なミスを連発し主導権を自ら手放した。53分には不用意なボールロストから名古屋の矢田旭にドリブル突破を許し、PKを献上。玉田にこれを決められ試合はほぼ決した。駒井は「本当にやってはいけないカウンターでした。あのままで自分たちが1点を返せば試合は変わっていた」と3失点目を悔やむ。
たまらず京都は57分に温存していたエースFW大黒をピッチに送り込むなど執念を見せたが、前半同様にチャンスを決めきる決定力に欠けた。67分には名古屋が玉田と松田の縦のパス交換から左サイドへ展開し、矢田のクロスを走り込んだ玉田が流し込んでダメ押しの4点目。試合はそのまま計8本のシュートで4得点を挙げた名古屋に対し、倍の16本を放って無得点だった京都の決定力不足は明らかで、そこにJ1とのレベル差があったようにも感じる。
だが、京都の川勝監督はそこを簡単に認めるな、と選手たちを激しく叱責する。「そんなのでJ1に上がれるのか?自分たちで弱気な面を引っ張り出したというのはゲームを見ればすぐわかる」と、相手を必要以上に恐れ、戦う姿勢を見せられなかったことに対し声を荒らげた。京都はここ2シーズン連続で、シーズン3位で臨んだJ1昇格プレーオフで敗れ、昇格を逃している。指揮官はそうした局面で最も必要な相手に負けない強靭なメンタルを植え付けたいと考えているのだろう。それは「4−0じゃない内容なのにねって同情されて、うんそうですねって簡単に言っちゃう人種にはしたくない」という言葉からも読み取れる。敗戦から何かを得たかと問われれば「ミスをすれば失点につながるという反省材料を与えられたと思える選手には収穫だと思う」と苦笑い。川勝監督の怒りに対し、チームがどのような反応を見せるかは、週末のリーグ戦・讃岐戦(8/24@丸亀)を楽しみにしたいところだ。
一方でスコアとしては快勝であり、主力を多数欠く中で高い決定力を見せつけた名古屋としても、内容面で不満が残る。西野監督は「前半は相手にポゼッションを許し、こちらがリアクションしていた」と序盤から主導権を握れなかったことに苦言を呈し、玉田もまた「点を取ってある程度余裕を持ってやると、ボールも回る。でもこれを最初からやる力があるのに、やろうとしないってのが問題なんだよね」とスロースターター気質が抜けないチームに改善を訴えた。相手に合わせてペースを譲り、最悪アップセットを喫するというのは名古屋の昔からの悪癖である。リーグでは依然、厳しいポジションでの戦いが続くいま、指揮官の信条でもある「自分たちからアクションするサッカー」をもう一度意識し直す必要があるだろう。
もちろん名古屋にも好材料はある。ケネディ、永井謙佑の2トップが機能しだしたここ数試合のチームにあって、松田、玉田、矢田という攻撃ユニットが見せた好連係は、攻撃陣に厚みをもたらすものだ。特に松田は昨季大分で見せていた高い身体能力を存分に発揮し、ようやくその才能を表現したと言える出来だった。また左サイドバックの佐藤和樹もこれまでで一番バランスの取れたプレーを見せ、成長を感じさせた。週末のリーグ戦を見据えたターンオーバーが成功したこと自体もチームには好影響で、各ポジションでの競争意識がさらに高まることは必至。トーナメントを勝ち進んだ上で、リーグ次節への良いステップとできたことが、何より今の名古屋には重要だ。
天皇杯の次戦は9月、相手は浦和相手のジャイアントキリングを達成したJ2群馬に決定した。次戦こそは指揮官も納得のいく戦いを披露し、エクスキューズなしにJ1の貫録を見せつけたいものだ。
以上
2014.08.21 Reported by 今井雄一朗
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