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【第94回天皇杯 3回戦 大宮 vs 湘南】プレビュー:鶏口湘南か牛後大宮か――、すべてのJサポーター注目の一戦。(14.08.19)

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天皇杯3回戦、大宮はホームNACK5スタジアム大宮に湘南を迎える。J2リーグ戦27試合で23勝3分1敗、ぶっちぎりでJ1昇格が確実視されるJ2史上最強チームと、J1リーグ戦20試合で3勝7分10敗の17位に沈み、5月6日以来ヤマザキナビスコカップ含めてJリーグチームに勝利のない、現在のJ1で最も結果の出ていないチームの一つとの戦いだ。

改めて大宮の置かれた立ち位置を見ると、無邪気に天皇杯のタイトルとリーグ戦残留の二兎を追える状況ではない。就任以来、「アジア(ACL)に出ることがクラブにとって重要」と語り続けてきた大熊清監督だが、さすがに「リーグ戦のこともあるし、コンディションも考えて、試合に飢えているヤツを使いたい」と、メンバーの入れ替えを示唆した。もともと、この夏に加入し、今や攻撃の中心となっているムルジャは、登録の関係上で天皇杯には出場できない(同様にチョ ウォニとマテウスも)。疲労やケガを考慮し、休ませたい選手もいる。その中で最強のJ2チームといかに戦うか、大宮にとっては選手層の厚さが試される。

ムルジャの代役には長谷川悠がいる。できればズラタンや家長昭博も温存し、リーグ前節の新潟戦の後半から出場して流れを変えてみせた泉澤仁や、このところ途中出場が続く渡邉大剛を起用したいところ。ボランチにも増田誓志、金澤慎ら実力者が出番を待っている。故障者が相次ぎ手薄となっているセンターバックには高橋祥平を戻し、代わりに左サイドバックには練習で積極的にアピールを続ける高瀬優孝を起用するのも面白いし、渡部大輔も故障から復帰した。そしてGKには北野貴之が、4月6日の神戸戦以来4カ月ぶりに復帰する見込みだ。

一方の湘南は、両ワイドと2シャドーを少しずつ入れ替えながらも、トップのウェリントン、菊地俊介と岩尾憲のダブルボランチ、遠藤航、丸山祐市、三竿雄斗の3バック、GK秋元陽太は固定して戦ってきている。もはやよほどのことがない限り自動昇格は確実だけに、天皇杯でメンバーを落とすとは考えづらい。ただJ1、それも大熊監督の率いるチームということで、日曜日の栃木戦で久々に実戦復帰した大竹洋平のスタメン起用は考えられる。
湘南について大熊監督は、「ゴール前の枚数、走る力、攻守の切り替えは素晴らしい。そういうヤツをそろえて一人に頼ったサッカーをしていないから、永木(亮太)がいなくても同じサッカーができている」と見ている。率直なところ、組織力という点では、湘南に分があるのは間違いない。ただ、「ストロングを裏返すとウイークになるのがサッカー」(大熊監督)で、受けに回ると際限なく押し込む勢いが湘南にはあるが、切り替えが過敏すぎるために、ミスやアクシデントが起きたときに意外な脆さを見せることがある。大宮としては、湘南の勢いを受け過ぎず、したたかにその隙を突けるかがポイントだ。

特に湘南の場合、前線からの組織的な激しいプレスは脅威だが、3バックにはそれほどの個の強さはなく、準備の整わない段階でFWにロングボールを放り込まれたり、裏を突かれたりすると、簡単にピンチになることが多い。また、サイドでプレスを剥がされてクロスを入れられると弱く、クロスからの失点率は36%にも上る。大宮としては、「まずFWを見ること、前に早くボールを付けることをチームとしてやっていく」(渡邉大剛)ことがポイントであり、ターゲット役となる長谷川も、「(ボールを)後ろに戻してからだとなかなか崩れてこないので、早めにボールを自分のところで受けたい」と語るなど、少ない準備期間の中、チームとしてやることを整理して試合に臨みたい。
ただし大宮が、湘南に前線からプレスでハメられ続けるようだと、主導権を渡してしまうことになる。ビルドアップの不安定さは今シーズンの大宮の泣きどころであり、逆に湘南にとっては激しいプレスからのショートカウンターという最大の武器が生きる。大宮には3バックのオプションもあるが、ミラーゲームを挑めば湘南のプレスに利するだけだろう。実際のところ、大宮にとって最も効果的な戦い方は、ズラタンと長谷川を前線に残し、残り8枚は引いてロングボールとクロス主体で戦うことには違いない。ホームのJ1チームがJ2を相手にそれでいいのかという倫理的な問題は残るとしても……。

サッカースタイルからいって、夏場の暑さと過密日程は湘南にとって不利であることは間違いないし、J2第24〜26節まで3連続引き分けに終わったこともそれを証明している。それでも来季のJ1参戦が確実視される湘南にとっては、ここでJ1を破り、あわよくば勝ち進むことで来季の舞台への自信をより強固なものにしたいはずだ。まして湘南は大宮に、昨季J1でプレシーズンマッチ含め4度対戦して4度敗れている。期するものがあるに違いない。逆に大宮にとっては、たとえ今の湘南がJ2史上最強チームであろうと、降格圏にどっぷり浸かっているこの状況でJ2チームに敗れるようなことがあれば……それも内容においても完敗するようなことがあれば、今後の残留争いを戦いぬくための自信さえ失ってしまう可能性がある。

この一戦に関しては正直、J1だから大宮が優位とは、とても言えない。鶏口か牛後か――、両チームのみならず、J1とJ2すべてのサポーターの注目を集める試合になりそうだ。

以上

2014.08.19 Reported by 芥川和久
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