掲示されたアディショナルタイムの4分が過ぎて試合終了を告げるホイッスルが響くと、両チームの選手達はその場で膝に手をつき、あるいはピッチに倒れて天を仰いだ。ともに放ったシュートは12本。しかしいずれにも、歓喜の瞬間は訪れなかった。
だがゲームを通しては、主導権はホーム熊本の手中にあったと言っていい。小野剛監督の言葉がその証左でもある。
「あれだけうまくゲームを持っていって何回もチャンスを作って、それで勝点1というのは、言葉にするのは非常に難しいんですけれども、内容が伴っていたからこその悔しさというのが、やはり選手同様、私もあります」
熊本が流れを引き寄せることができた要因の1つは―開始2分に先制を許した前期5節の反省も踏まえて―立ち上がりの千葉の攻勢をしのいだこと。特に、「クロスに対してファーに流れることが多かったので、そこは分かった上で、動きを見ながらしっかり対応できた」と園田拓也が話す通り、警戒していたケンペスに対するマークを、うまく受け渡しながらも怠らなかったことが奏功した。加えて、左右から中へ入ってくる山中亮輔と谷澤達也の両ワイド、逆に左右へ流れてスペースを作ろうと試みる大塚翔平の動きにも、ボランチとサイドバックが連携して対応。中を切って縦のコースに限定する寄せ方もあって、山中との関係で中村太亮が絡んでくる千葉の左からの攻撃には少し手を焼いたものの、トレーニングでもフォーカスしてきたクロス対応では自由に競らせなかった。さらに光ったのは、前節の讃岐戦で苦い経験をしたGK畑実の積極的な飛び出しである。「今まではミスを恐れていた部分もあった」とこぼしていたが、ハイボールにも思い切ってチャレンジに出続けたことで、前半に関してはほぼチャンスを与えなかったと言っていい。
一方の千葉は、「自分たちのミスからペースを崩して相手を乗せてしまった」という谷澤の言葉が端的だ。「相手を走らせて、疲れてきたところを衝くというのが自分たちのスタイル」(GK岡本昌弘)でありながら、25分以降は熊本にボールを握られる時間が増え、「走らされて」(同)しまった感がある。ケンペスがいい状態で競れず、また熊本の中盤にうまくスペースを埋められたことも関係してセカンドボール争いで後手を踏み、バイタル付近で起点が作れず、また左右の深いエリアまで運んでも中では弾き返された。
0‐0で折り返した後半の入りも、熊本にとってはポイントだった。だが前半同様に勢いを持って入ったことで流れは大きくは変わらず。66分、関塚隆監督が森本貴幸と佐藤勇人を同時に入れてからは、落ち着きどころができた千葉がやや盛り返したものの、熊本も途中出場の中山雄登と高柳一誠が中盤でよく拾っては緩急をつける。双方にスペースができてオープンな展開となる中、千葉は85分のケンペス、さらには89分の幸野志有人、熊本も84分の園田からのクロス、齊藤和樹からのクサビを中山がワンタッチではたいて高柳が抜けた85分と、終盤にかけて作った決定的な場面をどちらも決めることができない。87%を記録した湿度の中での消耗戦は、冒頭の場面を迎えて勝点を分ける結果となったのである。
千葉は関塚監督就任以降、6試合負けなしで6位をキープ。ただ、「上を目指す以上、勝点2をこぼしたと捉えないといけない」と岡本が言うように、直近3引分のうち2試合連続で無得点と、ゴールをいかにしてこじ開けるかが課題。前節も多くのチャンスを作っているが、「ゴール前でのアイデアであったり落ち着きであったり、技術であったり。そこを積み重ねていくこと」(関塚監督)が求められる。
対して熊本は、今シーズンここまでの中でもベストに近い内容。だからこそしっかり点を取って勝ちきりたい一戦だった。とは言え、テーマの1つであったクロスの対応、また前期の対戦や終盤の失点で勝点をこぼした前節の悔しさを糧に、成長の一端を見せることができたのは確か。もう1つ、積極的なインターセプトからの持ち上がりで好クロスを何本も供給した藏川、千葉のDFラインに圧力をかけながらポイントを作った巻誠一郎、局面で身体を張ったブロックを見せた片山奨典ら、“オーバー30”の経験豊かな選手達の献身ぶりが顕著だったことも見逃せない。
加えた勝点は1にとどまり順位は19位のまま変わらないが、まだまだ中位の背中は見えている。残りは15試合。この試合で発揮できたことを継続し、少しずつでも階段を上るのみだ。
以上
2014.08.18 Reported by 井芹貴志
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