「同じなのはシステムだけでスタイルは違う。浦和は攻撃的に戦っているけど、広島は引いて守ることが多い」
試合2日前の練習後、西川周作がそう語っていたが、まさにその通りの展開になった。フォーメーションは同じ3−4−2−1、ボールを持ったら4−1−5に変化するのも同じだったが、浦和と広島はリスクの負い方に違いがあった。
できるだけ前からボールを取りにいこうとする浦和に対し、広島は守備時に5−4−1のブロックを作って自陣深くに引いて守り、相手が来るまでじっと待ち構えていた。ボールを持ってもノーリスクの形で攻めようとしていた。
当然、浦和が主導権を握ることにはなったが、相手が引いてガッチリと守りを固めているのでチャンスを作るのは容易ではなかった。ボールを圧倒的に支配するものの、効果的な攻めがなかなか繰り出せない。いくらリスクを恐れずに攻めるとは言っても、相手が守りを固めてカウンターしか狙っていない状況で、強引に縦パスを入れて中途半端な形ボールを失うわけにはいかない。浦和は無謀な攻めを控えながら、時には勇気を持って仕掛けていたが、広島の人垣に跳ね返されていた。
そういう時にものをいうのがセットプレーだ。22分、柏木陽介がFKで直接ゴールを狙うと、ボールはポストに嫌われたものの、こぼれ球を阿部勇樹が押し込んだ。今季は質の高いプレースキックを見せている柏木の左足が均衡を破った。
失点しないことを第一に戦っていた広島は、ビハインドを背負っても戦い方を変えなかった。負けているにもかかわらずチャレンジしてボールを奪いにいくことはなく、自陣で待ち構えるのみ。どちらがリードしているのか分からなくなるくらいの姿勢だったが、柏好文はその理由を「最近は失点してからバタバタして引きずって下を向いて、連続して失点という形があったので」と説明する。広島は試合を壊さないためにも、前半は我慢の時間と割り切って戦っていた。前半、広島のシュート数はゼロだった。
後半はさすがに広島も前に向かう姿勢を見せたが、浦和が脅威に感じるような攻撃を仕掛けることはなかなかできなかった。今売り出し中のルーキー、皆川祐介が59分に交代で入ると、それまで前線でボールを引き出せていなかった石原に比べ、1トップが縦パスを受ける回数は増えた。ただ、マッチアップした永田も体を張ったディフェンスを見せ、次の展開には持ちこませなかった。前半と比較すればポストプレーでギリギリの攻防が増えた分だけ可能性は広がっていたが、それでもチャンスにはつながらなかった。
逆に広島が前に出て仕掛けた分だけ、浦和がショートカウンターでチャンスを作る形が増えた。65分にはペナルティエリア深く入った興梠慎三のパスが柏木に入ってスタジアムを沸かせ、その2分後にも興梠が通れば1点もののラストパスを梅崎司に送った。75分にはカウンターから李忠成が鋭いシュートを放ち、81分にも興梠がゴール前でボールを受けて広島守備陣に冷や汗をかかせた。
一方、この試合でチャンスらしいチャンスをずっと作れていなかった広島も敗色濃厚の後半アディショナルタイムにようやくひとつ見せ場を作った。道を切り拓いたのは、ひとり気を吐いていた皆川だった。永田を背中で抑え込むポストプレーでボールを収めると、後方から飛び込んできた柴崎晃誠にヒールでラストパス。柴崎はGKと一対一のビッグチャンスを迎えた。
ただ、柴崎の前に立ちはだかったのは並のGKではなかった。「先に動かないことだけを考えていた。相手の方が有利だったので、しっかり構えて待っていた」と慌てずにシュートストップに全神経を注いで待ち構えた西川に対し、柴崎はプレッシャーに気圧されたかのようにシュートを正面に蹴ってしまい、この試合唯一の決定機を生かすことができなかった。
これで浦和はヤマザキナビスコカップを含めて広島には6連勝。最後はヒヤリとさせられたが、見せ場の数から言っても浦和の勝利は妥当だったと言っていいだろう。
以上
2014.08.17 Reported by 神谷正明
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