福岡にとって、この日の試合は特別なものだった。上位陣との対戦が続く後半戦の最初の5試合をシーズンの山場として臨みながら、ここまで2分2敗。プレーオフ圏内の6位との勝点4差は、まだまだ悲観するようなものではなかったが、このままズルズル行けば昨年の二の舞を演じかねない。そんな状況の中で迎えた強敵・磐田との対戦。福岡には勝点3を取ることだけが求められていた。
そして、石津大介の神戸への期限付き移籍の発表。サポーターから愛され、福岡を特別な場所と話す石津の移籍は、福岡に関わる全ての人たちに大きなインパクトを与えた。しかし、悩み抜いた末に下した本人の決断を、全ての人たちが受け入れ、そして支持した。石津が福岡の選手としてプレーする最後の試合。何があっても勝利を手にして送り出したい。それがチームとサポーターの創意。スタジアムは、そんな想いで満たされていた。
その想いが立ち上がりの攻防に現れた。雨の影響でところどころに水が浮くピッチは、ボールを思うようにコントロールできず、足下もおぼつかない。それは磐田の選手のプレーを見れば一目瞭然だった。しかし、福岡の選手たちは、そのピッチの上をいつも以上に走り、激しくプレスをかけ、そして奪ったボールを積極的にゴールに向かって運んだ。「ボールに対するイニチアチブが足りなかったのかなと思っている」と試合を振り返ったのはシャムスカ監督。ボールに対する集散、1対1の局面での戦い、走るスピードと量、サッカーの原点ともいえる部分で上回る福岡が主導権を握る。
そして7分、福岡に先制点が生まれる。スローインを受けた坂田大輔がワンタッチで伊野波雅彦を抜き去ってサイドを突破、グラウンダーのクロスを送る。そこへ飛び込んできたのは城後寿。磐田もゴール前に人数を揃えてはいた。だが、ゴールに対する気迫に勝る城後の右足がゴールを捉えた。
追加点は13分。それはピッチの状態をものともしないパスワークから生まれた。始まりは中盤の高い位置でのプレス。数的優位を作って奪ったボールが1トップの平井将生を経由して、深い位置へ走り込んだ武田英二郎、それをサポートする石津へとつながる。フィニッシュ役を務めたのは坂田。石津からの浮球のパスを受けて左足を振り抜いた。
磐田がようやく落ち着き始めたのは20分を過ぎてから。しかし、その姿はJ2では個のレベルで他を圧倒するチームのパフォーマンスではなかった。互いの距離感が遠く、運動量が上がらずにパスが思うように繋がらない。福岡のプレスの前に藤田義明、フェルジナンドも効果的にボールを配ることができない。松井大輔、前田遼一不在の影響は大きく、高い位置にボールの収め所のないチームからは、何を狙いとしているのかも伝わってこない。時折、松浦拓弥、チンガ、ペク ソンドンらが巧みなドリブルで仕掛けるが、サポートがない中でのドリブルは単発で終わるだけだった。
それでも後半に入ると、福岡が守りの意識を高めたことから、磐田がボールを握る時間も増えた。80分には右サイドを突破したポポからのクロスに森下俊が合わせて1点差に迫った。前線にボールを収められなくなった福岡に立ち上がりの勢いはない。残り時間を考えれば、ここから何があってもおかしくはなかった。だが、ここで勝利への気迫が上回ったのは、やはり福岡だった。86分、山口和樹のクリアボールが前線に残る金森健志に渡る。対峙するDFは2人。磐田にとっては大きな問題があるシーンではなかった。しかし、積極果敢に仕掛ける金森は2人のマークを振り切って右足を一閃。次の瞬間、鮮やかな軌道を描いたボールがゴールに吸い込まれた。
勝利に対する気迫を余すことなく発揮した選手たち。福岡に対する想いをプレーで表現してくれた石津。チームとともに一体となって戦ったスタンド。今シーズン1番とも言える雰囲気の中で、福岡は磐田に3−1で完勝した。しかし、それも終わってみれば過去の出来事に過ぎない。「この勝ちを次につなげないと何の意味もない。まずは6位以内に入ることを常に意識しながらプレーしていきたい」(城後寿)。福岡はこれまでと変わらぬ気持ちでプレーオフ進出をかけた戦いに臨む。
そして敗れた磐田。この日はチームとしての連携が不十分であったことが全てだった。特に、大きく崩されたわけではないのに相手を自由にさせてしまう守備は大きな課題だろう。また、松井、前田不在の影響は思った以上に大きかったと言わざるを得ない。個の力は十二分にある。それをチームとして、どのようにまとめあげるのか。シャムスカ監督の手腕が注目される。
以上
2014.08.11 Reported by 中倉一志
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