勝利が遠い。名古屋の現状は、これに尽きる。リーグ再開後4戦で3分1敗、順位は15位まで下がった。前節の鳥栖戦も序盤はアグレッシブな展開を見せるも負傷者の影響もあって失速、結果は久々となる無得点での敗戦に終わっている。レアンドロ ドミンゲスを加えたチームの連係面は徐々に向上しているのだが、ゴールに手が届きそうで届かない。最高の特効薬である勝点3が、なかなか手に入らない。
その上、鹿島との一戦にも負傷者の影響が影を落とす。懸案は右サイドバックである。4月の第8節からこのポジションを担ってきた矢野貴章が右太もも裏の違和感で鳥栖戦を欠場。その代役として出場した田鍋陵太が開始19分で負傷退場したことで、今節の右サイドバックの人選が難しいものとなっている。第一候補は矢野で、本人も「先週よりはかなり良くなっている。決めるのは監督だけど、やれと言われればやる」と出場に前向きだ。しかし選手層の薄いポジションだけに、無理をさせるタイミングなのかどうかの見極めは必要だろう。他の候補として西野朗監督はMFの小川佳純と磯村亮太をトレーニングで試し、次善の策として準備している。「小川を使えば今季6人目の右サイドバックだよ」と指揮官が苦笑するように、適任者探しが続くポジションだ。小川は「攻撃面は問題ないけど、守備はそう簡単なものじゃない。自分がやるとするなら攻撃面でのアクセントになっていきたい」と前向きに話したが、突破力のある鹿島の2列目への対応は軽視できない。守備力を考えれば矢野か磯村。西野監督の決断は試合の趨勢を左右する要素となる。
対する鹿島の状態は上向きと見ていいだろう。名古屋と同じく再開後3戦連続で引き分けたものの、前節は広島相手に5-1の大勝を収めている。広島の特殊なフォーメーションに対し、ボランチをDFラインと連動させる特殊な守り方で対応するなど、チームとしての戦術理解度や連動性の高まりも感じさせる。遠藤康や土居聖真、カイオといった若い2列目と、古巣対決となるダヴィによる前線はチーム得点の3分の2を挙げており、特に2列目の得点力の高さはDFラインにとっては厄介だ。そして何よりも現在の鹿島はボランチの2人が素晴らしい。ベテラン小笠原満男と22歳の新司令塔・柴崎岳である。柴崎はここ2試合連続得点を記録し今季はすでに4得点。中盤の底からのゲームメイクに加え、ペナルティエリア内へのペネトレーションでも存在感を増してきた。小笠原については名古屋の西野監督の言葉を借りたい。
「鹿島は組織力、チームとして戦っているところが強い。それは伝統で、小笠原というシンボルがいるからそのスピリットが継承されている。世代交代の中でも存在は大きいし、毎シーズン、彼がチームを引っ張ってきた」。
高度な技術とパスセンスを持ちながら、中盤で体も張れる35歳はここまで全試合に出場している。まさしく鹿島のシンボルで、ゲームを深いところから支配する要注意人物である。
しかし名古屋にもシンボリックな選手はいる。指揮官はそれを背番号4だと明言した。
「(田中マルクス)闘莉王でしょう、ウチを引っ張るのは。やはりグレードは高い。彼と同じレベルで全員が並んでいけば、それがチームのスタイルとなっていくんですが、今はまだそうではない。だから闘莉王ばかりが際立ってしまう。彼を含めて全体的な色に変わっていけばいいんですけどね」。
その闘莉王は鹿島戦から復帰の見通しで、DFラインにとっては一つの朗報ではある。負傷で3試合を欠場したことでコンディションは整いきってはいないが、そこは闘将の異名を取る男。「今のチームは気持ちが足りない」と意気込んでいる。攻撃面でも現在チームのトップスコアラーの復帰は歓迎すべきことだ。
ゲームについては、西野監督は「イニシアチブは取りづらい」と予想する。そして課題はフィニッシュとも。それは選手たちの意見とも一致し、ここ4試合の結果の直接の要因でもある。シュートまで持っていけない、あるいはシュートを決められない、という場面を何度見たことか。前線の中心である玉田圭司は「孤立しないことだね。前の選手が良い形でボールを受けられていない」と言う。指揮官も「攻撃を構築しようとすると負傷者が出たりする。積み上げていくところまでいけていない」と苦悩を吐露するが、試合は待ってはくれない。悲観的な要素ばかりではなく、「個人としてはレアンドロ(ドミンゲス)のパスに対するタイミングなどは共有できるようになってきた」(西野監督)と、前を向く材料もある。個人の能力に疑いの余地はないため、あとはいかに得点への道筋をチームとして見出していくか、その作業の成否が勝敗に直結する。
名古屋は足元を見れば降格圏まで勝点差は1しかないところまできている。移籍市場も騒がしくなってきたが、今は目の前の試合に集中するのみだ。鹿島にはアウェイで快勝しており、その良いイメージはストレートに持って戦いたいもの。まずはリーグ再開後の初勝利にして、今季のリーグ戦での豊田スタジアム初勝利で、現状打破への道を切り拓きたい。
以上
2014.08.08 Reported by 今井雄一朗
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