タイムアップの瞬間、ホームゴール裏は呆然と静まり返っていた。百数十メートル向こうの狭いアウェイゾーンから、甲高い金属音を交えたお囃子が小さく、しかし陽気に鳴り響くだけ。もっともその静寂は、キャプテンマークを腕に巻いた家長昭博を先頭に大宮の選手たちがゴール裏へ歩き出した瞬間、激しいブーイングにかき消された。16試合を戦って1勝2分の勝点5、総得点4だったチームに、3失点を喫して敗れたのだから無理もない。スコアはもちろん、内容でも完敗。「何も言うことはない」(高橋祥平)、「ショックが大きすぎる」(渡邉大剛)と、選手たちもうなだれるしかなかった。
3バックと4バックを併用する大宮は、3バックの徳島に対して3バックで迎え撃つが、一つにはこれが裏目に出た感は否めない。そもそも大宮がミラーゲームを選択するメリットは、マークがはっきりした状態で守備に入れることにある。それは広島や鹿島など、守備組織のギャップを突くのが巧みな相手には効果的だったが、逆に大宮がボールを持って攻める展開になってみれば、そのメリットを享受したのは皮肉にも徳島のほうだった。
立ち上がりこそ徳島は大宮の攻勢を受けきれず、3分の高橋祥平のバー直撃弾などペナルティエリア内で危険な場面が続出したが、9分に高崎寛之が先制ゴールを挙げると自信を取り戻す。対照的に大宮が浮き足だったこともあり、徳島は鋭い出足で大宮のビルドアップを寸断し、セカンドボールも回収した。18分に大宮が左サイドに人数をかけ、強引に突破してクロスから同点に追いつくが、25分に徳島が追加点を挙げると、「あれが相手に勇気を与えてしまった」(渡邉)。
そこからは、引いて中を固める徳島の守備に、大宮はブロックの外でボールを回させられているだけになった。後半からは4バックに変更し、ミスマッチから徳島守備網のギャップを突こうとするが、「相手の嫌がるようなところで受けるのが少なかった」(渡邉)ために、徳島の強固な守備を崩せない。「ただ相手の真ん中に突っ込んでいくだけ」(渡邉)で、それは「しっかり守ってカウンター」(濱田武)をねらう徳島の思うつぼだった。57分の失点はクロスが今井智基の足に当たって江角浩司の頭上を越える不運も手伝ったが、いずれにしてもここで勝負は決まった。
結局のところ、大宮の問題はシステムではなく、攻守における連動性の乏しさにある。失点の場面はいずれも連携ミスで後手を踏み、寄せきれず、クロスは余裕を持って上げられ、シュートもフリーで許している。攻撃は足元へのパスばかりで、追い越す動き、3人目が絡む動きもほとんどない。対照的に徳島は、いずれの得点の場面でも追い越す選手が絡み、クロスやシュートを容易にしていた。守備でもムルジャ、ズラタン、家長昭博ら強力な大宮の前線に対し、余裕の防戦というほどではなかったが、「ミスがつながらずにだれかで補い合えた」(小林伸二監督)。徳島は組織的だったが、大宮は個人がバラバラに戦っていたために、ミスが連続して失点に直結した。
組織力で大宮を凌駕しただけでなく、スカウティングとその遂行力でも徳島は上回った。15節の広島戦で大宮は左サイドからクロスを簡単に上げさせ、中ではマークを簡単に外して2失点している。ただでさえ「シャドーの守備は難しい」(小林監督)ところへ、守備意識の低い家長が左サイドに入ったのを徳島は見逃さなかった。「そのシャドーの守備をさせるために、うちの3バックの右を上げさせてクロスをやった」(小林監督)ことで、狙い通りの2点目が決勝点となったのだ。
さらに大宮には不運が重なった。15分、高崎のシュートの膝が菊地光将の脇腹に入り、肋骨を骨折して退場してしまったことだ。リーグ屈指のエアバトラーを欠いて、大宮は高崎へのハイボールの対応で劣勢を強いられたばかりか、「ビルドアップにも少しもどかしさ」(大熊 清監督)が出てしまった。菊地からの、サイドハーフや相手最終ライン裏へのフィードは大宮の攻撃のアクセントになっているだけに、それを欠いたことも拙攻の一つの要因ではあった。また終盤の菊地を前線に上げてのパワープレーは大宮の一つの武器になっており、現に菊地は今シーズン3得点を挙げ、ヤマザキナビスコカップでも徳島からゴールを奪っている。まして今季はキャプテンとしてチームを鼓舞する姿も堂に入ってきたというのに……。彼の不在はあらゆる意味で大きかった。
最後まで徳島の守備組織は見事だった。5-4-1の形を崩さず、ブロックの外で回されても「入ったところでボールにだれが行くかしっかりしていけば問題ないと思っていた」(濱田)。実際、しっかりと組織されて連動する守備の前では、ミスマッチしていてもあまり関係ないのだ。昨年の甲府も中断期間に4バックから3バックにシステムを変更して、高い守備力で残留を勝ち取ったが、この日の後半の大宮の攻めあぐね方は、リーグ第9節の甲府戦に酷似していた。徳島がここから昨年の甲府のように残留するのは容易ではないが、この日も最後まで落ちなかった走力を武器に、徹底して堅守速攻のスタイルを貫くことで、その可能性を大きくしていくしかないだろう。
一方、リーグ戦も半ばが終わった段階で、大宮はまるでプレシーズンのチームのような課題をいまだに模索している。救世主になるべきムルジャに対しても、これからますます他チームの対策が進むだろう。何よりもまず、リーグ再開後3試合で8失点の守備を立て直しが急務だ。3バックとか4バックとかシステムの問題ではなく、連動して守れる組織を構築できるかどうか。その上で、攻撃において個人が抑えられても相手を崩しきる連動性を。それができない限り、降格圏脱出は見えてこない。
以上
2014.07.28 Reported by 芥川和久
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