90分を通してほとんどの時間帯で主導権を握っていたのは浦和だったが、だからといって浦和の試合だったというわけではない。いや、正確に言えば、浦和はイメージ通りのサッカーができていたが、鹿島も狙い通りの戦いができていた。
浦和はポゼッションからの仕掛け、鹿島は引いて守ってカウンターというスタイルで挑み、それぞれが見せ場を作った。「日本でこれだけのゲームを見られる機会は稀だと思います。それくらい両チームとも素晴らしいプレーをしていたと思います。2つのチームが、違うやり方で勝利を目指していました」とはミハイロ・ペトロヴィッチ監督の弁だが、両者の好対照の戦い方がうまく噛み合うことで見応えのある試合になった。
浦和は青木拓矢に代わって鈴木啓太、平川忠亮に代わって関根貴大がスタメンを飾ったが、いつも通りのサッカーをした。それに対し、鹿島は小笠原満男と柴崎岳のボランチ2枚が浦和の2シャドー、柏木陽介と梅崎司をマークすることで危ない場面を作らせないようにしていた。
そのケアの仕方がまた絶妙で、ある程度のところまではマンツーマンに近い形で見ながら、バイタルエリアから大きく離れて落ちたり、サイドに流れたらマークを離してゾーンに切り替えていた。基本的に2人の対応は後追いだったので、シャドーの2人にボールが入るところまでは許すものの、前は簡単に向かせないという絶妙な距離感を保っていた。
浦和は1トップ2シャドーのコンビネーションで中央突破する機会は簡単に作らせてもらえなかったが、相手の守備が基本的に後追いで、縦パスを当てるまでは比較的簡単にできたので、中から外、外から中という大きな展開でゴール前までボールを運べた。森脇良太、槙野智章がしばしば起点になっていたのはそのためだ。
先制点につながるCKを獲得した一連のプレーも、高い位置でボールを持った森脇が起点になった。森脇のパスを中央で受けた梅崎のループパスから興梠慎三が落とし、そして柏木がフィニッシュという流れは実に見事だった。最後、柏木のシュートは相手の足に当たって枠を外れたが、そこで獲得したCKから興梠が今年も古巣への“恩返し”弾を撃ち込んだ。
一方、鹿島の大きな狙いは柏木が「高い位置でボールを回せたけど、結果として中へのパスを奪ってカウンターというのを狙っていた」と振り返ったように、1トップ2シャドーに入る縦パスをカットしてからのカウンターにあったが、その中で効いていたのが柴崎岳だ。シャドーに決定的な仕事をさせないというタスクの中で、回数は少ないながらもチャンスと見れば積極的に前に顔を出し、速攻に絡んだ。12分には強烈なミドルでGK西川周作を脅かし、26分にはボールカットからピンポイントのミドルパスでダヴィの決定機をお膳立てした。
その柴崎が30分に決めた同点ゴールは、鹿島の狙いがピタリとハマッた形だった。柏木の縦パスがDFに跳ね返されて土居聖真にボールが入った瞬間、柴崎はその後ろから全力疾走。そのまま裏に抜け出し、ダヴィのスルーパスをペナルティエリア内で受けると、一回、中を確認した上で「相手に付かれていたので、思い切り自分で打とうと思った。とりあえず顔の横辺りに高く打とうという意図はあった」とニアの高めを撃ち抜いた。柴崎のゴール前の落ち着きと的確な判断、そしてゴールマウス上部を正確に狙えるキック精度は見事というほかなく、改めて異能の者であることを証明した。
これで浦和の連続無失点記録は7試合でストップしたが、記録が途絶えたことで集中力を欠くような選手はいなかった。「思っていた以上に割り切ってプレーすることができていたと思うし、失点も自分たちがトライした結果だったので。気持ちとしては余裕を持って集中することができた」とは西川。失点したことでバタバタしなかったのは昨年からの成長の表れと言っていいだろう。
それに西川は転んでもただでは起きなかった。78分にダヴィに裏に抜け出され、柴崎の得点シーンと似たような状況を作られて同じように顔面付近にシュートを撃たれたが、「あの失点があったからこそダヴィ選手のシュートも止めることができた。余裕を持って構えられたし、上に来ても手を出せるぐらいの良い構えができていた」と今度はファインセーブでやり返した。
浦和は無失点記録を止められ、公式戦の連勝も8試合でストップ。浦和は決定機を何度か作っていたため勝てる可能性は十分にあったが、鹿島もカウンターから危険な場面を数回作っていた。どちらにも勝つチャンスがあったということを考えれば、1−1という結果は妥当だったのではないだろうか。
以上
2014.07.28 Reported by 神谷正明
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