スタンドで赤が揺れた。「くまもと県民DAY」と銘打ったこの試合、スタジアムに訪れた1万を超すホームチームサポーターの声と想いが、厳しいコンディションの中で戦った彼らを鼓舞し続けた。小野剛監督は言う。
「最後は本当に皆、ぼろぼろの感じでしたけども、集まってくれた皆さんの声援が疲れた背中を押してくれて、スタジアム中の皆さんとともに勝点3を取ることができたと思います」
流れを変えたのは、後半からピッチに立った巻誠一郎の献身ぶりである。1点ビハインドで迎えた51分、水戸のクリアボールを拾った片山奨典が左足でロングフィードを送ると、前節の湘南戦で仲間隼斗の得点につなげた場面と同じように、巻が正確なヘディングで落とす。その落下点に入りダイレクトで合わせた橋本拳人のシュートはクロスバーに跳ね返ったが、詰めたのは澤田崇。「ゴール前の精度と判断がシーズン後半の課題」と話していた澤田のチームトップとなる今季6点目で、熊本がスコアをタイに戻した。
さらに77分、ペナルティエリアの外で浮き球を処理した巻がうまく体を入れ、水戸のファウルを誘って得たフリーキック。ゴールほぼ正面、約20mの位置から狙ったのは養父雄仁だ。右足から放たれたボールは緩やかな弧を描いて水戸GK笠原昂史の逆を突き、きっちり枠の中へ。これでリードを奪い返した熊本は、90分を通じて水戸(7本)の約3倍にあたる20本のシュートを放つ等、特に後半は水戸を圧倒して7試合ぶりの勝利を――まさにスタジアム全体で――つかみ取った。
もっとも、内容が良かったかと言えば決してそうではない。チャンスは作れど点には至らず、「プレスに行くタイミングを何回か逃して、ロングボールを入れられて苦しくなっているところがあった」「スイッチをどうやって入れていくか、スイッチが入っているのにそれを手放してしまうプレー、それとボールを持った時に足元のプレーが多くなってしまった」と小野監督も語った通り、狙いとしたプレッシャーからのボール奪取と、そこからの攻撃は連動性を欠いた。水戸のブロックを崩すべく、バイタルでの縦パスにチャレンジする回数は少なくなかったし、またサイドを深くえぐってのクロスの場面も、特に片山と黒木晃平が絡んだ左から多く作っている。しかし受ける側のサポートやアイデアの乏しさから、水戸の守備陣を混乱させる形ができていたとは言いがたい。
澤田のシュートがポストに嫌われ、そのこぼれから五領淳樹が狙ってチャンスを作った直後の39分、長いボールを鈴木隆行に頭でつながれ、右に流れた小谷野顕治に引っ張られる形で船谷圭祐をフリーにして先制を許している。
失点の形はまずかった。だが前半終了間際という時間帯は、見方によっては幸いした。前半の状況を冷静に捉えて考え方を整理するうえで、ハーフタイムが頭の冷却時間になったからだ。「巻さんが入ってからは皆の共通理解を持ってできた」と園田拓也も振り返ったように、巻の投入が明確なメッセージとなり、「もう1回、相手のディフェンスラインにもっとプレッシャーをかけていく」(小野監督)という狙いのもと、「チームの意識が統一されて」(同)後半に臨むことができたのである。
水戸の柱谷哲二監督も、追いつかれたあとの60分、「ちょっとバタバタしていたので、4−1−4−1の形にしてバランスを取る」という意図で西岡謙太を送り出しているが、全体的に熊本のプレッシャーを受けてのミスが目立ってサイドで起点を作ることができず、後半のシュートはわずか2本に留まった。前半を優位に運べていたからこそ、水戸にとっては後半の入りが悔やまれる。ホーム長崎戦(7/30)まで中3日と時間は限られるが、総力で連戦を乗り切りたい。
勝った熊本も手放しで喜べる内容ではなく、まだまだ課題はある。それでも、逆転で結果を手にしたことが何よりの滋養となったことは間違いない。終了間際に2枚目の警告を受けた片山は無念にも次節出場停止となるが、その思い、さらにはこの日集まった観客の思いを胸に、前期敗れている2位・松本山雅に挑む次節(7/30@松本)。プレーオフ圏との勝点差7をわずかでも詰めて来週のホーム群馬戦(8/3@うまスタ)に帰ってくることができるか、問われるのは常に、次の一戦での成果だ。
以上
2014.07.27 Reported by 井芹貴志
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