試合後の監督記者会見で、横浜FC・山口素弘監督が「J2はそんなに差がないと思っている」と述べているように、確かにJ2のクラブ間で戦力的な差は大きくない。もちろん、この試合で対戦した横浜FCと磐田を比べれば、磐田のほうが戦力だけではなく、伝統などを含めてある意味勝っているとも言える。しかし、その「差がそんなにない」一方で、磐田・シャムスカ監督が「局面のところで脆さが出た」と振り返ったように、試合の序盤から見えた局面の厳しさの差が、90分を通して大きな差に広がっていったゲームだった。
立ち上がりこそ、両チームともサイドを狙った展開で互角の入りを見せるが、横浜FCがこの日先発のパク ソンホへのロングボールを織り交ぜた組み立てを見せると、パクは磐田DFラインとの空中戦でほぼ圧勝の展開。こぼれ球を確実に拾い、パスワークを使って展開することで、横浜FCが優位に立った。
そして、22分の横浜FCの先制点は、局面の厳しさの差が如実に表れた場面だった。寺田紳一が、左サイドのゴールライン沿いを強引に突破。そのクロスは一度右サイドに流れてスローインになり、スローインからのクロスを八田直樹がパンチング。そのボールが、左サイドでフリーになっていていた寺田の足下に落ちる。この場面で寺田は全くのフリーになっており「感覚的には5秒ぐらい考える時間があった」(寺田)という状況で、ゴール右隅へのパスのようなシュートで先制する。
後半、磐田は小林祐希に代えてチンガを投入し、前線も2トップに変更。ポポや松井大輔が前を向く場面が出てくると、横浜FCのペナルティエリア付近を素早い展開で脅かすようになる。逆に、横浜FCもカウンターを仕掛ける展開となり、ゲームに動きが出てきた勝負所で追加点を挙げたのは、ハーフタイムに「2点目が勝負だ、強気に行くこと」(山口監督)と送り出された横浜FC。
54分、裏に抜け出した小池純輝に松下年宏が浮き球のパス。このパスを小池はシュートに結びつけられなかったが、一度持ち直し、ゴール前に走り込んだ野崎陽介にパスをすると、冷静にグラウンダーでゴールに流し込んだ。ゴール前の野崎へのマークも含め、この場面も磐田の守備の脆さが見えた場面だった。
その後、横浜FCはセットプレーから2点を加点。62分には、松下年のFKから野上結貴が駒野友一の前にやすやすと入り込みゴール。90+3分には途中出場の安英学が、同じく松下年のFKをGKが弾いたところをボレーでたたき込み4点目。このFKも、松下裕樹の激しいボール奪取から小池のドリブル突破で得た「局面での勝利」がもたらしたものだった。ゲームは、この日の攻撃の核であるはずだった松井、ポポが孤立する時間が長かった磐田を横浜FCが圧倒する形で終了した。
横浜FCにとっては、第3節・山形戦(3/22)以来4カ月ぶりのホーム・ニッパツ三ツ沢球技場での勝利、そして連勝となった。山口監督は「(前田遼一、金園英学、フェルジナンド、伊野波雅彦が)いなかったから勝ったんだということではない」と振り返ったが、やるべきことを愚直に遂行した上での勝利であることに大きな意味があるだろう。ポゼッションのスタイル、パスでの崩しという狙いのスタイルが、局面での激しさによって活性化できることを示すことができたのは大きな収穫だ。そのことを、山口監督は「勝負にこだわるプレー」と表現したが、この試合の4ゴールにはその要素がすべて詰まっていた。そして、無失点で終えたことも勝負にこだわるプレーという意味では手応えがあった。これで後半戦は連勝スタート。リーグ戦は6試合負けなしとなった。聖地ニッパツ三ツ沢球技場での勝利は、大きな反撃の狼煙になったことは間違いない。
磐田にとっては、前節・東京V戦、そしてこの試合の連敗は、ともにゲームの立ち上がりにペースを渡してしまい複数失点をしたという意味では、少し流れが悪いものとなってしまった。前田、金園といった選手がいないことで相手への脅威が少なくなったのは確かだが、それ以上に局面での勝負、そして守備のやりかたに大きな混乱があり、その混乱を立て直せなかったのは大きな課題だろう。また、攻撃面でもポポと松井が孤立。ゲーム途中での修復ができなかったことが、この大敗に繋がった形だった。今後、終盤に向けて出場停止なども想定されるだけに、目標の自動昇格に向けてこの試合を口苦い良薬にできるか。
昼間は猛暑だったが、試合時間中は心地よい風も吹いていた三ツ沢の丘。その丘で、横浜FCの選手、サポーターは上昇に向けた熱を放射しつづけた。J2は残り19試合。このテンションが続くことを期待したい。
以上
2014.07.27 Reported by 松尾真一郎
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