終了間際、ペナルティーエリアを飛び出したC大阪GKキム ジンヒョンが、クリア気味に前線へ大きくロングフィード。すると、ボールは、この試合でJリーグ通算450試合出場を果たした横浜FMのDF中澤佑二のマークを振り切って前線に走り込んでいたC大阪FW杉本健勇のもとに。これを、20番をまとう期待の若きストライカーが、横浜FMのGK榎本哲也の動き出しをしっかり見て、右足でシュート。右側のポストを叩きながら、ゴールを決めきった。その瞬間、ヤンマースタジアム長居は、この日最高の、割れんばかりの大歓声に包まれた。土壇場の同点弾で、なんとか試合を振り出しに戻したC大阪。リーグ戦での連敗を3で止め、横浜FMと勝点1を分け合った。
ただ、C大阪にとっては、苦しい試合だった。今節は、C大阪のクラブ創設20周年記念マッチとして、上下赤の20周年記念ユニフォームで挑んだホームチームだが、「90分通して、試合をつかむことができず、競り合いに勝つことがなかなかできなかった」と言うのは、マルコ ペッツァイオリ監督。前節、川崎F戦でキレのいい動きを見せた楠神順平をあえてベンチに置き、Jリーグ選手登録が完了したばかりの平野甲斐、キム ソンジュンという夏の新戦力を即先発させ、2人のハードワークを活かしたかったのだが、「今日は5分×3回くらいしか、そのようにアグレッシブに前に前に行くことができなかった」(ペッツァイオリ監督)。その要因は、「今日は横浜FMが研究してきたというのもあったと思うし、相手の距離感もすごく絶妙なところで、プレスも掛けにくくて、うまく前半から入りきれなくて、結局、後者後者になってしまった」(平野)からだ。
それでも、前半終了間際、先にゴールをこじ開けたのも、C大阪だった。「せっかく前で使われているので、自分のなかでもチャレンジしようと思って、あそこで勝負した」というのは、前節、C大阪加入後初得点を決めた右サイドの安藤淳。2人のマークに合いながらも、果敢に右クロスを放つと、横浜FMのDF栗原勇蔵の背後から表れたのが、平野。「抜けてきたら、絶対に決めてやるという気持ちだけで飛び込んでいった」という新18番が、いきなり大仕事をやってのけた。この一撃で、C大阪は1点リードで折り返すことに成功した。
後半からは、安藤に代えて、チームに合流したばかりのフォルランを早速起用。システムを4-3-3から4-2-3-1に変えて、追加点を狙いに行ったC大阪。しかし、前節に引き続き、足が徐々に止まり出すと、横浜FMの両サイドから崩されるシーンが目立ち始める。それでも、GKキム ジンヒョンの好守で、ピンチをしのいできたが、66分、ついに決壊。途中交代で入ってきていた横浜FMのFWラフィーニャの左クロスに、伊藤翔が合わせようとしたところ、その前でクリアに入ったC大阪DFがオウンゴール。さらに80分には、再びC大阪の右サイドを崩され、齋藤学に勝ち越し弾を許した。
横浜FMのサポーターを除いて、スタジアム全体が重苦しいムードになった終盤。しかし、「チームは最後まであきらめずに、モラルを見せてくれたと思いますし、最後の最後まで戦ってくれた」と、C大阪のペッツァイオリ監督。その思いが、杉本の値千金弾につながった。「天皇杯で120分戦ったあと、1週間に2試合という日程のなかで、チームが自信を持つために、そして、これから試合をやっていくためにも、貴重な勝点1だった」(ペッツァイオリ監督)。この指揮官の言葉を、さらに説得力あるものにするためにも、次節、甲府とのアウェイ戦(7/23@中銀スタ)で、今度こそ新体制初白星を得たいものだ。「サッカー自体が悪いわけではない。これをどれだけ我慢して、次に行けるかだと思う」というのは、新井場徹。ぶれずにペッツァイオリC大阪のサッカーを継続することこそ、光明を見出す術となるだろう。
一方の横浜FMにとっては、前節の広島戦に続き、一時はスコアを逆転しただけに、「結果的に、勝点2を失ったという思いが強い」というのは、樋口靖洋監督。「(最後の失点は)1番やっちゃいけないこと。ああいうところで取りこぼしていると、上位との差は縮まらない。引き締め直さないといけない」と兵藤慎剛も言うように、チームにとっては悔やみきれない幕引きだった。それでも、「しっかりとゴールに向かう姿勢のなかから、逆転をしたこと、そういう時間をしっかり作れたことについては、私はプラスに考えている」と樋口監督もイレブンを讃えるように、再開後2戦で明るい材料を作れていることも事実。新戦力のラフィーニャもいきなり存在感を示しただけに、ここからの巻き返しが楽しみであり、トリコロールに目覚めの予感が漂った試合でもあった。
以上
2014.07.20 Reported by 前田敏勝
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