リーグ戦とは異なり、一発勝負の天皇杯。今季のJ2リーグ戦ではなかなか勝利に恵まれない横浜FCと富山が、その勝負へのこだわり、1点へのこだわりを見せ合った試合となった。その中で勝利を手にしたのは、隙を見せなかった富山だった。
リーグ戦とほぼ同じメンバーで臨んだ横浜FCに対して、富山は怪我人もあり選手を入れ替えなければいけない状況。その中で、立ち上がりは横浜FCが優勢に立つ。球際や局面で優位に立ち、ワンタッチのパスワーク、サイドチェンジを多用し富山を翻弄する。しかし、富山も最後の場面では体を張ったシュートブロックを見せてゴールを割らせない。そして、劣勢の富山が22分に先制する。横浜FCがハンドリングの反則を犯して与えたFKを、内田健太が決める。内田は「狙っていたコースに相手が立っていたので、とっさに壁の中に入っていたミチさん(秋本)を狙って蹴った。打合せなしだったけれど、うまくよけてくれて真ん中に決めることができた」と振り返り、一方横浜FC・山口素弘監督は「いらない失点でしたね。大きなミスで、今更かもしれないが反省しなければいけない点」と悔しがったが、FKを与える流れも含めて横浜FCに出来た隙をしっかりと富山がモノにしたゴールだった。そして、この1点が横浜FCに大きくのしかかる。「若干気落ちした」(山口監督)横浜FCが、局面での優位も少し譲り渡してしまい、ボールの動きが落ちてくる。そして、前半は0-1で終了。
後半立ち上がり、横浜FCは小野瀬康介から野崎陽介に交代し、前線での動き出しを増やして、動きの中から崩すという横浜FCが貫いているスタイルで愚直にゴールを狙い続ける。そして、ボランチと前線の間をリンクを強めるために寺田紳一を投入し、最後はパンチ力のある野村直輝を投入。しかし、分厚い守備を引く富山に対して、最後のシュートシーンを作ることは出来なかった。その大きな理由は、最終的にはサイドにボールを回すことを余儀なくされて、その先のクロスをフィニッシュにつなげられなかったこと。山口監督は高さのあるパクソンホではなく野村を投入した理由を「下で回して動きながら崩す」と述べた。野村は精力的に動き回るとともに、パスワークに参加し、この狙いを表現できていたが、ハーフタイムの安間監督の「エリアの角を取ってくる時のつぶし方と、両ボランチが横に入ってくるのを後ろが取るのかボランチが取るのかセンターが取るのか、やられてはいけないところの確認をした」という指示を守った富山の守備を崩すことはできなかった。そして、富山は勝利に向けたタスクを完遂。3回戦へ駒を進めることとなった。
富山にとっては、「新しく入った梅村選手が戻れないところを白崎が80m疾走したり、(ヤン)ヘジュンのカバーを中島翔哉が50m、60m走ってカバーしたり、最初の頃には見られなかった姿を見せてくれて、ゴール前で体を張って守る姿は頼もしく感じました」と安間監督が語ったように、チーム全体で勝ち取った勝利は今後のJ2のリーグ戦の戦い、そして天皇杯の勝ち上がりに向けて大きな収穫になるだろう。
横浜FCは、この試合でも、崩しまでの意思統一の素晴らしさと決定機を作り出すところの精度の低さのアンバランスを解決することはできなかった。ゴール裏のサポーターは、プロの証としてのゴールを願うチャントを後半の45分間中断することなく歌い続けたが、その願いは届かなかった。後半、1点をもぎ取るための執念は見せ続けた。強固な富山の守備陣を切り崩すファイトも見せ続けた。しかし、富山の狙いを冷静に見た上で別の一工夫を加えることができなかった。
隙を逃さずに1点をもぎとった富山。勝利のために1点を返すべく、しつこく切り崩しを試みた横浜FC。その執念は一発勝負の天皇杯の試合にふさわしいものだった。その上で、より隙を見せなかった富山が結果をつかんだ試合だった。
以上
2014.07.14 Reported by 松尾真一郎
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