水戸にとって単なる一勝ではない。これまでけが人の多さに苦しんできた水戸が、苦境を乗り越えて新たなステップに踏みこもうとしていることを証明し、チャンピオンチームへの挑戦権を手にしたとともにリーグ後半戦に向けて希望を抱かせてくれる大きな意義のある勝利と言えよう。

J2第21節から水戸は6人、福岡は10人先発を入れ替えて挑んだゲーム。両チームの総合力がぶつかり合った。これまで出場機会に恵まれなかった若手を多く起用した福岡に対し、水戸はけがから復帰してきたばかりの小谷野顕治と細川淳矢を先発起用。5月に足首の手術を行った石神幸征もベンチ入りを果たした。この日の陣容からけが人が続々と復帰し、チーム状態が上向きつつあることをうかがうことができた。

主導権を握ったのは水戸だった。「水戸はボール回しがうまかった」と森村昂太が振り返るように、テンポのいいパス回しでプレスの的を絞らせず、攻め込む展開を築いた。その流れを作ったのが小澤司と中里崇宏のダブルボランチだ。はじめての組み合わせとは思えない絶妙なコンビネーションを見せて、左右にボールを散らしてゲームを組み立てていった。4分、12分、18分と立て続けに決定機を築き、25分に船谷圭祐が蹴った左CKを鈴木隆行がニアで合わせて水戸が先制する。鈴木隆行のうれしい2014年初ゴールによって、チームはさらに勢いづいた。

一方、若手を積極起用した福岡はなかなかチームとして機能しなかった。水戸のスピーディーなパス回しについていけず、防戦一方の展開を強いられた。ただ、ゴール前でDFが体を張って1失点に抑えたことで後半に望みをつなぐことができた。
後半に入っても水戸のペースが続き、56分には小澤からのループパスをGK前で小谷野が受けるもののシュートを打てず、62分には電光石火のカウンターから最後は鈴木雄斗からのラストパスを船谷圭祐がゴール前で受けたが、福岡DFの粘り強い対応に防がれて追加点を奪えない。

すると、福岡に流れが傾いていく。途中出場の酒井宣福や金森健志らが中心となり、前線から激しくプレスをかけて水戸のビルドアップを遮断。水戸の最終ラインに圧力をかけて徐々に押し込んでいった。
しかし、水戸の守備陣は集中を切らすことはなかった。細川と冨田大介のセンターバックコンビはコーチングの声を張り上げ続けて隙を作らず、ボランチとサイドバックはハードワークを見せて相手の進入を防いだ。悪い時間帯をしっかりしのぐと、85分に両サイドを広く使った攻撃から最後は小谷野がミドルシュートを叩きこみ、勝負を決めた。

水戸はメンバーを大幅に入れ替えてもチームとしてのスタンスを崩すことなく、戦えたことは今後に向けて大きな自信となったことだろう。プレビューで記したように、この試合の先発メンバーに対して柱谷哲二監督は「現状でコンディションのいい選手」を選択し、決して出場機会に恵まれない選手にチャンスを与えようとしたわけではないことを強調していたが、その言葉に納得できるだけのパフォーマンスを選手たちは披露してみせた。
この勝利によって、もはや水戸には「レギュラー」という概念がなくなったと言ってよい。全てのポジションでし烈なポジション争いが行われるようになり、試合に出るためには日々のトレーニングでの競争に勝たなくてはいけないのだ。ポジションが保障されている選手は誰ひとりいない。少しでもコンディションを落としたら、メンバーを外れることとなる。そうした危機感がチームをレベルアップさせていくことだろう。
さらに、小谷野のFW起用や小澤のボランチ起用など新たなオプションを手に入れたこともチームにとっての大きな収穫と言えるだろう。今後、対戦相手や試合展開によって様々な策を出すことができる。この選手層の厚さこそが、後半戦の水戸の武器となることを感じさせる勝利であった。リーグ折り返しでやっと戦力が整った水戸。来週末に再開するリーグ戦が楽しみで仕方がない。

一方、選手層に不安を残したのは福岡であった。若手主体のメンバーで臨んだものの、監督の期待にこたえるプレーを見せられたとは言い難かった。リーグ後半戦を勝ち抜くためにも選手層の厚さは必要不可欠。「ここで出た課題をこれからの糧にしていきたい」と語った金城クリストファー達樹をはじめ、若手選手たちがこの敗戦の悔しさを忘れずに日々のトレーニングに取り組むことが求められる。「ポジション争いが激しくなるようにしなければならない」とプシュニク監督は語気を強めた。この試合に先発した選手たちのうち何人がポジションを奪うことができるか。リーグ後半戦のポイントとなるだろう。

以上

2014.07.14 Reported by 佐藤拓也