名古屋にとって初となる“兄弟対決”の時が迫ってきた。天皇杯2回戦の相手として勝ち上がってきたチームの名はトヨタ蹴球団。トヨタ関連企業に務める選手たちによって構成され、トヨタ自動車サッカー部を母体とする名古屋とはいわば親戚のようなチームである。トヨタは昨年の天皇杯にも愛知県代表として出場していたのだが、1回戦で長野に敗れ天皇杯初勝利と兄弟対決はお預けに。しかしその悔しさをバネに精進を重ね、1年越しで挑戦権を獲得してきた。
同じ“トヨタ関連のサッカー部”としてようやく実現した一戦に、トヨタの面々の鼻息は荒い。例えば風村真伸監督は1回戦後に次のように話している。
「ここを勝てばグランパスと戦えるので、まずは今日の試合を勝とうと気持ちを高くもってやれました。2回戦のことはゆっくり考えますが、力の差はある。まずはディフェンスを考えて、全員で攻めて、守ることになるでしょう。開始早々にやられることのないように、守備の意識を持ちながら、どこまで耐えられるか(笑)。でも、やる前から負けるつもりでいるチームはありません、少しぐらいは勝利のパーセンテージがあるもの。トヨタの社長から何て言われるかわからないけど(笑)」
まさしく挑戦者の心境である。過去に名古屋のセレクションを受けた経験があるというキャプテン・鈴木淳也はさらに高ぶる思いを隠さない。
「去年、パルセイロに1−4で負けた悔しさをバネに、天皇杯に出るだけで満足しない選手が増えました。今回は勝てばグランパスと戦えることもモチベーションになりましたね。僕らも少しぐらいは爪痕を残してやろうとしています。ひっくり返すくらいの気持ちでやってきましたし、選手たちは職場の協力を得ながらこのチームに賭けてきた、それが2回戦進出という形になりました。負けたくないですね。個々の差はあるので、我慢の時間も増えるでしょうけど、勝ちに行く作戦を練って、チームで得点を取りに行きたい。勝つという野望を、僕らは持っていますよ」
トヨタのメンバーは普段、仕事があるため平日に全員が揃って練習することは少ない。しかし週末に揃った際に「気持ちを揃えて練習する」(鈴木)と、団結力で勝負するつもりだ。
一方で受けて立つ側の名古屋は、プロの矜持が言葉の端々からにじみ出る。トヨタの意欲を意に介さず、目前に迫ったJリーグの再開初戦を視野に入れ、天皇杯初戦に臨む。カテゴリー差はざっと4つ以上。ことさらな警戒心は抱かない。
「天皇杯よりもリーグ、という感じですね、照準を合わせているのは。レアンドロ(ドミンゲス)が天皇杯では使えないので、その意味でも。当然、結果を出してリーグへというところですが」(西野朗監督)
「そんなに難しい試合にはならないでしょう。相手に自由にやらせないようにしたいです。リーグ再開へ向けて良い流れを作りたいですね。公式戦ですからまずは勝つことを大前提に、良い部分がたくさん出る試合にしたいです」(小川佳純)
補足しておくが、相手を軽視しているわけではない。名古屋の心境を察すれば、いまは天皇杯、トヨタとの対戦よりも、中断期から再開した3バックシステムの習熟の方が大きな課題なのである。序盤戦3ヵ月で得た情報を元に、西野監督は一旦は諦めた3バックの再導入を決断。「序盤の公式戦で34失点した守備を何とかする。でも守備を考えての3バックじゃないとは選手に言っている。あくまで相手ゴールを目指すシステム」とは西野監督の言だ。だが牟田雄祐、田中マルクス闘莉王、本多勇喜の3名による最終ラインと、新加入のレアンドロをトップ下に据える新布陣はまだまだ発展途上にあり、リーグ戦へ向けできるだけその完成度を上げたいというのが本音だろう。
その3バックの肝となるのは両ワイドMFである。彼らが高い位置を、どれだけの時間で保てるか。その結果次第で3バックは5バックとなり、攻撃力も削いでしまう。現状のファーストチョイスは右が矢野貴章で左は3年目の佐藤和樹。佐藤はこの布陣のスタートから一貫して使われ続けており、「体力的にも慣れてきました」と充実の表情。「監督も含めみんなが良いプレーは褒めてくれるし、悪いプレーはすごく言われる。とにかく走ってみんなを助けたい」と目を輝かせながら天皇杯を見据える。逆サイドの矢野は対照的に冷静だ。今季は右サイドバックでのプレーも様になってきたが、「DFラインに吸収されないように気をつけています。後ろの選手とのバランス、連係が大事になりますね。サイドバックより上下動が激しくなってくるので、上がるタイミングと仕掛けるタイミングとチャンスを見極めたい」と、一つ前のポジションを黙々とこなしている。
そして当時JFLの長野に敗れた昨季の敗戦の当時者でもある矢野は「チャンスを仕留めることが天皇杯では大事。去年と同じことを繰り返さない」と表情を引き締めた。油断大敵は矢野に限らず、名古屋の面々の心に刻まれている鉄則だ。福岡大学時代に大宮を破るアップセットを演じた牟田などは挑戦者側の心境も思い出し、すべきことを明確に説明する。
「僕は大学のとき『食ってやろう』の側でしたけど、ちょっとでも『戦える』と思わせてはいけないんです。強い気持ちで戦い、『無理だな』と思わせる。プロとの差を見せることが重要です」
試合展開は誰もがイメージする通り、名古屋が支配することにはなりそうだ。その中でトヨタがどれだけ反撃の時間を作ることができるかが見どころの一つになる。トヨタは181cmの長身FW小池恭一と機動力のあるFW片山雄大のツートップを起点に、攻撃的MFの鈴木と奥村情らとの流動的なポジションチェンジをチャンスメークにつなげられるかがカギとなる。中盤ではMF渡辺大輝がゲームメイカーとなり、運動量豊富なボランチ増田充が広い範囲をフォローする。この6人が専守防衛の戦いの中で、いかに持ち味を出せるかがトヨタの勝機を決めるだろう。ちなみにこの6人のうち、小池と片山は名古屋のDF本多と阪南大学の同期、奥村は本多や磯村亮太と名古屋の育成組織での同期、さらには渡辺が佐藤と育成組織の同期という奇縁もある。渡辺は1回戦の勝利のあと、「僕は小学生の時からグランパスにいましたから。ずっと憧れていた選手たちと本気の試合ができることに特別な思いはあります。一泡吹かせてやりたいですよね」と“古巣”との対戦に意欲を見せている。
「負けたくない」トヨタと「負けられない」名古屋では、明らかに名古屋が格上だ。勝って当然の名古屋に対し、世間の目はどうしてもトヨタの奮闘ぶりに行きがちになる。とはいえ名古屋は始めて1ヵ月弱という構築中のフォーメーションで内容の濃い勝利を求められる、ハードルの高い試合であることは忘れてはならない。その上で、名古屋はプロの威厳を見せつけるつもりでいる。初の兄弟対決はそれぞれの思惑や意志が複雑に絡み合い、熱のこもった試合となりそうだ。
以上
2014.07.11 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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