富山戦の前々日、決定力不足について問われた阪倉裕二監督は、こう答えていた。
「5回チャンスを作っても点が取れないならば、6回、7回と作るメンタリティが必要になる」。
立ち上がりから富山を圧倒し、数多の決定機をこしらえた栃木だが、0−2で敗れた前節の福岡戦同様に決め切ることができなかった。「前節と同じ流れだったので嫌な流れなのかなと思った」。指揮官が抱いた思いを、少なからず栃木サポーターも感じていたに違いない。芽生え始めたそんなネガティブな感情を、キャプテンが一蹴する。中盤でセカンドボールを拾うと、すぐさま湯澤洋介に預け、ワンツーで富山の右サイドを切り裂き、最後は倒れながらも執念でゴールを決め切った。ゴールが割れなくともヘッドダウンせずに、継続的にチャンスを創出する。指揮官の思いに応え、チームとして作った4つ目の決定機を物にした廣瀬浩二。165cmの小さな背中が、一際、大きく見えた瞬間だった。
前節、連敗を9で止めた富山。その勢いを栃木の選手たちは必要以上に警戒していた。だが、蓋を開けてみれば、序盤からイニシアチブを握ったのはホームの黄色いユニホームだった。富山の3バックの両端を丹念に突く。特に先発復帰した瀬沼優司のスペースへのランニングが奏功し、DFラインを押し下げられた富山は徐々に全体が間延びし始める。選手間の距離が拡がった富山とは対照的に、栃木は小野寺達也と西澤代志也のダブルボランチが適度な距離感を保ち、セカンドボールを拾いまくる。セカンドボールワークで優位に立ち、25分には湯澤のパスに廣瀬が飛び出してGKと1対1の絶好機を迎えた。ここは元栃木のGK飯田健巳がバレーボールのブロックの要領で廣瀬のループを叩き落としたが、好守でも流れを変えるには至らず、41分に栃木がショートカウンターから先手を奪った。
「前半は内容が無かった」(内田健太)富山は、後半の頭から一気呵成に攻め立てたかったが、48分にポスト直撃のシュートを浴びて出鼻を挫かれてしまう。ハーフタイムの安間貴義監督の指示が響かずに、53分には2点目を献上。キム ヨングンの縦パスを西澤にカットされ、廣瀬、湯澤と渡り、最後は近藤祐介にニアサイド上段にシュートを突き刺された。後半の残り20分こそ富山ペースになり、81分に内田が1点を返す。しかし、「後半の出足の得点が勝敗を分けた」と安間監督が悔やんだように、同点には持ち込めずに敗北を喫した。
GK飯田は打たれてから目覚める悪い癖を、前半戦の低迷の原因に挙げた。中島翔哉も「最後に点は取れたけれど、あのように縦パスを入れるなどリスクを負って攻めるプレーを、試合開始からやれるようにしなければいけない」と同調した。前半の富山はリスクを負うのを恐れ、無難なプレーに終始し、そこでミスが重なり、致命傷につながった。後半戦も厳しい戦いが続きそうだが、栃木戦の終盤の20分のサッカーは躍動感があり、実際にゴールネットを揺らした。その感触を忘れることなく、残された21試合に活かしたいところだ。
前節の教訓を糧に自分たちの時間帯でゴールを決めた栃木だが、悪い流れの中で耐え切れずに失点してしまったのは改善点。さらにチームの幹を太くするには、「そこ(猛攻を受けた時間帯)を耐えないといけないし、耐えながらもう1点取るしたたかさも必要」(阪倉監督)。良い時間帯と悪い時間帯のメリハリをつけることを、阪倉監督はトレーニングメニューに落とし込んでいる。自分たちの時間帯で取り切る力は養われつつある。同時進行で耐久性が増してくれば、現状の7位からプレーオフ圏内の6位以内に食い込んでいけるはずだ。前半戦で学んだことを次節の千葉戦から表現し、後半戦はスリリングかつ刺激的な上位争いを常に繰り広げたい。
以上
2014.07.06 Reported by 大塚秀毅
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