ホームの湘南は序盤からポゼッションを強め、敵陣に攻め入った。「みんなで立ち上がりから思いきってやろうと話していた」。菊地俊介がそう振り返ったように、その菊地や遠藤航、吉濱遼平、岩尾憲らがシュートに至り、球際も切り替えも譲らない。
先制点はそうした展開から間もない。20分、岩尾からパスを受けた吉濱が中央で仕掛ける。「ミスしても前に前にアグレッシブに行くプレーをしたいと思っていた」と語ったとおり、得意のドリブルで狭いスペースを突破し、最後は武富孝介が落ち着いて流し込んだ。
これまで先発でチームを支えてきた永木亮太とウェリントンをコンディションや出場停止によって欠いたこの日、湘南にとってはチーム力の問われる大切な一戦だったに違いない。勝利はもとより、「ただ勝てばいいというスタンスでやっていないので、内容も伴って、自分がいつもやっているとおり、またはそれ以上にチームのために何ができるかという意識をもってゲームに入った」岩尾は語っている。今季初先発の吉濱然り、彼ら自身は課題を口にしたが、チームのスタイルのなかでそれぞれが特長を発揮した意味は大きかった。
一方、守備力を背景に勝利を手繰ってきた北九州にとって、先の失点は悔やまれた。「前半しっかり0に抑え、相手の足が止まり始めたときからペースを掴み、点を取って勝つという流れがこれまでは多かった。最初に失点したことでそのゲームプランは壊れてしまった」と柱谷幸一監督は語っている。
スコアが動いたのちも変わらぬ両者の構図のなかで、湘南は再び得点機を掴んだ。相手の攻撃を阻むと素早く切り替え、縦につけて押し上げていく。右ワイドの藤田征也の折り返しに応えたのは、序盤から前線で動き直しを繰り返していた岡田翔平だ。「みんなで決めたゴール。しっかり枠に行ってよかった」(岡田)。力強く右足を振り抜いたのは39分のことだった。
0−2で折り返した後半、北九州も攻勢に転じた。「負けている状況だったし、前に前にプレーしようとみんなで心掛けていた。前半よりは多くチャンスをつくれたと思う」たとえば池元友樹が語ったように、カウンターやセットプレーから好機をつくり出した。60分前後にはコーナーキックを6本続け、ゴールに迫った。
しかし、湘南もまた逞しい。「みんなしっかり声を出していたし、ほんとうに集中していた」GK秋元陽太は振り返る。ウェリントンと永木の不在はセットプレーの守備にも大きく影響したに違いないが、通常とは異なる役割のなかでも個々が責任をまっとうし、また相手の交代に応じてマークを変えるなど細やかな徹底もあってピンチを凌いだ。曹貴裁監督も、「あのコーナーでやられなかったことがひとつ勝負を分けたかなと思っている。ああいうところを凌げるようになったのは、ひとつ成長かなと思う」目を細めた。
その後、湘南は防戦にとどまらずに攻撃に出た。立ち上がり同様に攻め入り、最後は敵陣で長い笛を聞いた。
「湘南とはホームでもう一度やれるので、それまでにしっかりチームとしてすべての要素をレベルアップして次は勝てるように頑張っていきたい。何よりも次の愛媛戦がいちばん大事なので、1週間しっかりトレーニングして、勝てるようにみんなで頑張っていきたい」と北九州の柱谷監督は語り、次のホームゲームを見据えた。
一方、湘南は総力を示し、勝点3に結んだ。個々の特長も発揮されたが、しかし「いつもスタメンで出ているみんなの凄さをあらためて肌で感じた」吉濱は言う。「自分の持ち味は出せたと思うけど、走る部分や守備で貢献する部分など自分はまだまだ。ほんとうに練習からしっかりやっていきたいと思った」。
たとえばそう口にしたように、勝点3とともにそれぞれが課題と収穫を手にした。今後を思ううえでも、湘南にとって意義深い1勝であるに違いない。
以上
2014.06.29 Reported by 隈元大吾
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