バドゥ前監督から引き継いで急遽チームを率いることになった京都・森下仁志監督代行がこの試合に臨むにあたって選手達に強調したのは、「走る、戦うといった球際の部分で攻守において上回らないと、自分たちのボールを動かすサッカーもできない」ということだった。また、「しっかりトレーニングできている自信があった」(森下監督代行)と、右サイドバックに磐瀬剛、左のワイドMFに田村亮介と、ともにJ2リーグ初出場となる若い選手を先発に起用。これまで左でプレーすることの多かった山瀬功治は中に絞り、大黒将志と縦の関係を作った。
しかし、前節の群馬戦、前々節の北九州戦の失点場面の反省から、ボールに対して強く当たることを意識付けていた熊本は、立ち上がりの京都の勢いをしのぐと、前線のプレッシャーに合わせて少しずつラインを押し上げ、10分過ぎからはセカンドボールも回収できるように。養父雄仁のパスに澤田崇が抜け出し、その落としから片山奨典がクロスを入れた17分の場面は中で合わなかったものの、とくに左サイド(つまり京都の右)、磐瀬の上がった背後のスペースへボールを入れる形で徐々に流れをつかむ。そうしてスコアが動いたのは20分。巻誠一郎がファウルを受けて得たフリーキックから中山雄登が左足でインスイングの低いボールを入れると、京都GKオ スンフンの鼻先に詰めた澤田がスライディングしながら合わせた。
先制して以降、京都がボールを握る時間が増えていく中でも、熊本は外へ追い出しながらコースを限定してボールホルダーを潰しにかかり、25分には左からえぐって園田拓也、26分にも片山がミドルと、早い切り替えから攻撃に転じてはチャンスを作っている。だがこの試合でもやはり、“流れがある時に2点目を取れなかった”ことが、後で響いた。
熊本にとっては「締めないといけない時間帯」(橋本拳人)だった45分、自陣でボールを奪った京都は、工藤浩平が大きく左へ展開。その先でボールを受けた田村が寄せてきた篠原弘次郎をかわして中へ折り返すと、中央へ入ってきたのは大黒だ。「あいつは速いから、動き出しを見るように意識していた」という工藤から田村への正確なパスにはじまり、「トラップした瞬間に相手が来て『これは行ける』という感じだった」と振り返った田村の突破、そして「あいつだったら抜いてくると思った」という大黒のクロスへの入り方とフィニッシュまで、イメージと判断、タイミング、そして技術の全てがリンクした同点ゴールである。
後半開始早々の53分、磐瀬が右足を痛めて交代せざるを得なくなったのは、京都にとって想定外だったろう。だが「外で仕掛けてくれるので、自分は中で勝負できる」と大黒も話したように、駒井善成をサイドバックに下げる判断で森下監督代行が送り出した伊藤優汰の積極性が、勢いを加速させる一因にもなった。交代から間もない55分、伊藤が右の深い位置まで運ぶと、熊本のクリアボールは伊藤の体に当たり、さらにゴールポストに跳ね返って山瀬の足元へ。山瀬がダイレクトで放った右足シュートは枠を外れていたが、大黒が合わせて京都が逆転。10分後の65分にも、山瀬からの浮き球を大黒が決め、3−1とリードを広げる。
熊本はその直後に巻を下げて藤本主税を投入(3点目を失う前から交代の準備はされていた)、76分にはボランチの養父に代えて原田拓、中山雄登に代えてキム ジョンソクを送り出すが、京都も田村から中山博貴と、バランスを取りつつも攻撃の流動性を損なわない交代カードを切って対応し、優位に進める流れを維持。78分には熊本の縦パスをカットした伊藤が自らドリブルで持ち込み、ペナルティエリア外から左足でループ気味に4点目を沈め、勝点3を決定づけた。
「昇格に向けてやっていくリスタートの試合」(工藤)に臨んだ京都は、ひとまず監督交代という大きな決断が結果につながった恰好。加えて、田村や伊藤など若い選手が持ち味を発揮したこと、そして大黒や工藤といったチームの軸がしっかりと周りを牽引したことは、今後に向けての明るい材料と言える。だが試合後、「もっと判断を良くすればもっとボールも動かせるし、もっと崩せてもっと点も取れる」と森下監督代行も述べている通り、得点に結んだ以外の決定機は少なく、16本のシュートを打っていることを考えれば内容自体のクオリティは決して高かったわけではない。9位に浮上してプレーオフ圏も射程圏内に捉えたからこそ、この試合でできたことを継続し、さらに質を高めることがリーグ戦後半の鍵になりそうだ。
熊本は今季ワーストの4失点で15位に後退。小野剛監督は「選手はよくやってくれた。彼らの頑張りを勝点に結びつけることができなかったのは監督である私の責任」と話したが、追いつかれるまでの試合運びが非常に良かった分、特に後半は悔やまれる内容となった。確かに大黒の決定力は素晴らしかったし、アンラッキーなボールのリフレクションもあった。攻め上がった後のスペースを使われたことや、積極的な判断の結果としてインターセプトされたことなど、失点につながったボールロストの要因自体は責められるものではない。それでも、最も気をつけなければいけない場所で、マークの甘さやボールに対する寄せの緩さがあったことは確か。2点目が取れなかったこと以上に、失点の仕方が悪かったことにも目を向けなくてはならない。
選手達はもちろん、その点は十分把握しているはずだ。激しい雨にも関わらず、7,000人を超す数が集まった観客の思いに報いるには、そして何より自分たちの自信を取り戻すには、同じ轍を踏まないよう、この苦い一戦を糧とするしかない。
以上
2014.06.22 Reported by 井芹貴志
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