この試合、岐阜のホーム・長良川競技場には、実に13,016人の観衆が詰めかけた。2試合連続での1万越えは、もちろんクラブ史上初。ピッチ上で繰り広げられたのは、この大観衆に恥じぬ試合だった。
岐阜はこの試合、【3-4-2-1】の長崎に対し、【4-3-2-1】の布陣で臨んだ。相手の3バックの両脇のスペースを、左の美尾敦と右の太田圭輔で突き、サイドでイニシアチブを握り、3バックを押し広げ、かつバイタルエリア中央では3バックとボランチの間に高地系治を置くことで、高い位置で起点を作りだすことが狙いだった。
試合は立ち上がりから動く。狙い通りサイドから攻めると、3分に左FKを獲得。このFKをゴール前に放り込むと、競りに行ったFWナザリトが倒され、PKを獲得する。ナザリトのキックは、一度は長崎GK大久保択生に阻まれるが、こぼれをDF三都主アレサンドロが押し込んで、岐阜が幸先よく先制に成功する。
しかし、この後が良くなかった。長崎は左の石神直哉、右の神崎大輔の両ウィングバックを高い位置に張り出させ、彼らを起点に前線のFWイ デホン、東浩史と佐藤洸一のツーシャドーの3人が、岐阜のギャップにうまく入り込んで、ショートパスを繋いでいく。これに岐阜の対応が次第に後手になると、18分、中央でボールを受けた東が前線へ送ると、自身は猛然とダッシュ。石神ががら空きの中央のスペースに落としたボールに、東がそのまま走り込んで、冷静にゴール左隅に蹴り込んだ。同点に追いついた長崎は、21分にも左サイドを崩すと、イ デホンがGKと1対1になる。これはGK川口能活のファインブロックに阻まれるが、長崎の素早い崩しは岐阜を苦しめた。前半はそのまま長崎ペースで進んだが、これ以上スコアは動かず。1−1のままで後半を迎えた。
「3−4−3の高木さんのシステムをなかなか掴めず、素早い展開を受けたので、試合を見ていて、あそこにハマるのは3−5−2だと思った。練習でやったことはないけど、選手には3−5−2で行くよとは言っていた」(ラモス瑠偉監督)。
後半、ラモス監督は美尾に代えて、MF水野泰輔を投入。ボランチのヘニキを一枚落として、阿部正紀、木谷公亮、ヘニキの3バックに、宮沢正史と水野のダブルボランチとし、左の三都主、右の益山司の両サイドバックをウィングバックに上げ、ナザリトと太田のツートップの後方に高地を置いた【3-4-1-2】にシフトチェンジした。これは前半、長崎との噛み合わせが悪かったことを見て、長崎とほぼ同じ布陣にすることで、その噛み合わせを良くした、まさに『目には目を』のシフトチェンジだった。そして、これが功を奏し、後半立ち上がりから岐阜がペースを掴む。
48分、ナザリトがうまく抜け出しシュート。GK大久保が弾いたこぼれに太田が反応するが、これはDFにクリアされる。49分には、益山の右からのクロスをナザリトがフリーでヘッドするが、これはGKの正面を突いた。さらに61分、ナザリトの落としたボールを、太田がミドルシュート。しかし、これもゴールには至らず。
守備も攻撃もうまくはまり、前半の悪しき流れから完全に抜け出した岐阜だったが、チャンスをモノにできないでいると、68分、高木琢也監督はイ デホンに代え、FW深井正樹を投入。佐藤を1トップに、深井と東のツーシャドーに切り替えた。深井が1.5列目に入ったことで、裏への飛び出しという武器が出来、長崎の攻撃にようやくアクセントが生まれた。この交代から、長崎が攻勢を強め、岐阜のゴールに襲い掛かった。
こうなると共に激しく攻守が入れ替わる展開に。77分に岐阜が左サイドを破った三都主の折り返しを、中央で益山がフリーで狙うが、これは僅かに枠の外。それに対し長崎は、88分、左からのクロスを76分に投入されたFW小松塁がヘッドで合わすが、バーを直撃。さらに89分に決定機を迎えるが、これはゴールラインぎりぎりで太田がスライディングクリアした。
共に決定機をモノに出来ぬまま、90分とアディショナルタイム3分が経過し、タイムアップ。白熱の攻防は1−1のドローという結果となった。
前半は完全に長崎のペースだった。しかし、ホームの岐阜がその中で先制点を奪い、ハーフタイムの修正で、しっかりと修正してイーブンの戦いに持ち込めたことは評価が出来る。しかも、練習でやったことが無かった【3-4-1-2】が機能し、立て直してのドローは非常に価値がある。これは長崎にも言えて、岐阜が戦い方を変えた直後は混乱していたが、徐々に冷静さを取り戻し、最後は自分たちのペースを再び引き寄せてみせた。これは非常に価値のあることだ。共にこの勝点1をポジティブに捉え、次の戦いに臨んでほしい。それくらい、この試合は中身の濃い一戦だった。
以上
2014.06.22 Reported by 安藤隆人
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