互いのよさを潰し合うのではなく、よさを出し合い、両チームともに多くのチャンスを作り出した、サッカーの面白みが凝縮した90分。「非常に面白いゲームだった」と敗れた柱谷哲二監督が振り返ったように、勝敗を別として、両チームのアグレッシブな姿勢がぶつかり合う展開に多くの観客が魅了されたことだろう。
一進一退の攻防が続き、どちらに勝利が転んでもおかしくなかった。その中で福岡が上回って勝利を手にした要因の一つとして水戸に先制点を許さなかったことが挙げられる。
序盤、雨の中詰めかけてくれた6千人の観客の期待にこたえようと、水戸が攻勢に出た。前線から激しくプレスをかけて高い位置でボールを奪取。そこからスピーディーな攻撃で福岡ゴールを脅かした。
2分には右サイドで内田航平とのパス交換から抜け出した小澤司が決定機を迎える。左足で狙いすましてシュートを放つものの、GK神山竜一が右足を伸ばしてはじき出す。さらに23分には左サイドからのFK、船谷圭祐が蹴ったボールはファーサイドに走り込んだ新里亮の頭にドンピシャリ。新里が教科書通り叩きつけたヘディングシュートを再び神山が右手1本でかきだした。
「決めるところで決められなかったのが痛かった」と金聖基は唇を噛んだ。水戸はどうしても先制点が欲しかった。けが人が相次ぎ、鈴木隆行も累積警告により出場停止となった今節、ベンチにはフィールドプレーヤー6人が入ったものの、万全なコンディションだったのは田向泰輝と白井永地、鈴木雄斗の3人のみ。攻撃のカードは鈴木雄しかおらず、点を取るためのカードは限られていた。だからこそ、リードして余裕を持った状態で試合を進めたかった。しかし、神山の再三の好セーブによって、水戸はプランが狂うこととなった。
33分に酒井宣福のシュートのこぼれ球を金森健志が詰めて福岡が先制するも、40分には広瀬陸斗からのロングボールに抜け出した吉田眞紀人がGKをかわして同点ゴールを決める。互角の展開のまま、後半を迎えた。
序盤から激しくプレッシングをかける両チーム。どちらが先に緩むかが勝負の分かれ目となった。福岡は後半開始から石津大介を、62分に平井将生、72分には森村昂太と攻撃的な選手を次々に投入。プレスを強め、勢いが増していった。一方、水戸はなかなか選手交代ができず、徐々にプレスが緩むことに。75分過ぎから全体が間延びしだし、福岡の縦パスが入りはじめる。
そして82分に内田が2枚目の警告を受けて退場に。水戸はすぐに選手交代の準備を行うが、その流れの中で福岡は猛攻を仕掛けて水戸に交代を許さず、そして83分に中央を崩して勝ち越しゴールを決める。平井からのパスを受けた石津の強烈な一発。途中出場の選手たちが大仕事を遂げたのだ。
現状における両チームの選手層の差も福岡が勝利を手にした一つの要因である。それもやはり、チームマネジメントを含めたチーム力の差。福岡が勝つべくして勝ったゲームと言えよう。これで4試合負けなしの3連勝。「アビスパはすごいゲームをした」と胸を張ったマリヤン プシュニク監督のもと、福岡は上昇気流に乗り出した。
敗れはしたものの、水戸にとって決して下を向く必要のない敗戦である。勝負である限り、負けることもある。ただ、たとえ負けたとしてもチームとしてのスタンスを出し切れるかどうかで評価は異なることとなる。今節に関しては、しっかりスタンスは出せたゲームだったのではないか。けが人が多い苦しい状況の中でも最後までアグレッシブな姿勢を失うことなく、「前に出ていく」意識を強く出すことができていた。それこそが水戸のサッカーだと示してみせたのだから、ネガティブな敗戦ではない。
進むべき道は示した。あとはぶれることなく、前進していくことだ。これから続々とけが人も戻ってくる予定であり、「クオリティを高めるため」(柱谷監督)先週から週に3回、2部練習している効果もこれから出てくることだろう。
水戸が面白くなるのは、これからだ。
以上
2014.06.22 Reported by 佐藤拓也
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