ワンプレーが局面を激変させることは往々にしてある。今節の大分戦で言えば、それは30分のプレーということになる。流れを変えたのは、左サイドバックの赤井秀行だ。
「とにかく1本目(のシュート)はいいところに(ボールが)来たので、それまでシュートが少なかったし、思いっ切り打った」
ミドルシュートはGKの正面に飛んだものの、果敢にチャレンジしたことにより、「最初は流れが良くなかったけど、セカンドボールを拾えるようになり、流れを引き戻せた」(赤井)。大久保哲哉の先制弾が生まれるのは、それから3分後のことだ。赤井は大分キラーとして知られ、この日はゴールにこそ絡まなかったが、劣勢を挽回したことを考えれば、相性の良さは健在だったと言える。6失点して大敗した前節の鬱憤を晴らす、今季最多の4ゴールが飛び出す快勝だった。
「前半の最初は(大分が)前節の山形みたいに出てきたけど、どう対処すれば良いのか経験でわかっていた。そこで焦ることなく、ジャンさん(大久保)に蹴るプランを見失わなかったことで1点が取れた」
山形戦の惨敗が活きた。そう述懐するのは、最も屈辱を味わったであろうGK鈴木智幸。若いアタッカー陣が躍動した大分の攻撃は厄介であり、そこに切り替えの際のパスミスが加わり、栃木は苦境に立たされ続けた。しかし、前節と今節で大きく異なったのは、相手の波に飲み込まれなかったことだ。失点せずに耐えに耐え、前線のターゲットに放り込み、そのセカンドボールから攻撃する形を貫徹。焦れずにプランを遂行したことが、33分の大久保の先制点に結び付いた。
後半の立ち上がりも然りだ。「ピリッと入らないといけなかった」(近藤祐介)のに、立て続けに3度もゴールを脅かされた。だが、前半同様にこのピンチもGK鈴木智を中心に乗り切ると、その先にはオープンな展開のカウンター合戦が待ち受けていたが、一歩も引くことなくノーガードで撃ち合い、73分に廣瀬浩二がカウンターから抜け出して加点に成功。栃木はポゼッションが不得手で、テンポをスローダウンできないが、そこに目を向けずに、持ち前のアグレッシブさを前面に押し出したことが奏功したと言える。2−0になってからさらにスリリングな攻防が繰り広げられたが、大分は4度の決定機を逸し、逆に栃木は廣瀬と大久保がスコアを積み重ね、ゴールショーを締めくくった。
6試合ぶりに黒星を喫した大分。「4−0というスコアほど内容的には差がなかった」と話した末吉隼也の言葉は、強がりではなかった。数試合ぶりに相手よりも決定機の数で上回ったのだから。ところが、相手よりも決定機が下回ってもゴールしていたのに、今度はゴールが取れないのだからサッカーは難しい。「最後の精度がウチの課題で、ずっと(ゴールが)取れていない」と田坂和昭監督は険しい表情を浮かべつつも、「最後に点を取る形は、ほぼ練習どおりというくらいにボールを動かせていたし、ペナルティエリアまで入っていた」と手応えも口にしている。つまり、トレーニングの成果は出ているのだ。であるならば、継続してトレーニングを積むしかない。そこにしか答えはないのだから。
足を止めて撃ち合いに応じた栃木だが、一歩間違えば同点、あるいは逆転されていた可能性もあっただけに、紙一重の部分もあった。そのリスクを承知で敢えて殴り合った側面もあった、と近藤は言う。
「うちは点がなかなか取れない。取り癖を付けるのも大事。行ける奴はどんどんゴールを脅かさないと。湘南がそうでしょう? 1−0で満足せずに、取れる時に取るところは見習いたい」
よりアグレッシブに。それは阪倉裕二監督が志向するサッカースタイルである。取れる時に取り切ってしまう。その発想はこれまでの栃木にはなかったモノだ。失点のリスクはもっと削る必要があるが、複数得点を狙う姿勢は失いたくない。
以上
2014.06.15 Reported by 大塚秀毅
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