ここ２試合、１勝１分といい流れできている讃岐。そして１勝１分と調子を落としている札幌。どちらも同じ勝率ながらチームの状況はまるで違う。勢いのあるチームが押し切るのか？地力で勝るチームに軍配が上がるのか？サッカーの神様が用意していた結末にスタジアムは驚きと歓声で包まれた。

讃岐は２トップにコンビネーションの良さが目立ってきたベテラン２人、高橋泰と今節でＪ２通算１５０試合出場を果たした我那覇和樹を置き、ベンチには今季初出場を待つ木島良輔が控える。一方、札幌は「今週（プレーが）出来る選手を考えた時に、こういうメンバーになった」（財前恵一監督）と４人の選手が入れ替わったスタメン。ケガ人が多く苦しい状況がうかがえる。

しかし主導権を握ったのは苦しいはずの札幌だった。後ろでボールを回し押し上げながら前へ長いボールを供給。スピードのある石井謙伍や6試合ぶりのスタメンとなるヘナンが積極的に裏へと抜け出す。２０分過ぎには石井が立て続けに２本のシュート。どちらもＧＫ瀬口拓弥に阻まれるも２回とも石井はゴール前でフリーになっていた。札幌の選手全員が連動しスペースを作るという術に長けていた。その後も札幌の時間が続く。効果的なサイドチェンジを繰り返して讃岐を翻弄し、ロングボールを入れスペースを生み出して走りこんでくる。讃岐は札幌の堅い守りに前線へとボールを入れられず、たとえ前へつながってもＦＷが孤立していてシュートに結びつける事が出来ない。シュート数は、讃岐の１本に対し札幌は８本。前半の内容はこの数字が全てを物語っている。

そして後半序盤も札幌優位は続く。先に動いたのは自分たちのペースを取り戻したい讃岐だった。岡村和哉に変え「守備の部分で落ち着かせたかった」（北野誠監督）と山本翔平を投入。山本が入る事によって距離感の修正もはかられた。第１３節の群馬戦からポゼッションサッカーにシフトチェンジした讃岐。「ちょんちょんボールをつないでいくのがボールポゼッションだと考えがちだけど、そういうのは目指していない。長いボールでもボールの入った所で２人、３人としっかり連動出来れば何の問題もない。ボールポゼッションって結局、リスクを負って攻める事」と言う北野監督のサッカーをここまでほとんどさせてもらえなかった讃岐だが徐々に指揮官の思いがピッチで表現されていく。札幌は６１分に内村圭宏を投入し、決めきれない現状の打破を目指す。６３分には内村のクロスを石井がシュート、同じく石井が今度はヘディングと讃岐ゴールを脅かすも讃岐のディフェンス陣が体を張って守り抜く。そして７５分、ついに真打登場！木島が今季初めて試合のピッチに立った。割れんばかりの拍手が鳴り響く大きなプレッシャーの中で木島は監督・チームメイト・サポーターの期待に応えた。８１分、木島が切り返して外の武田有祐へ。そこからのアーリークロスを持留新作がゴール正面に陣取っていた高橋に流しゴール左隅へ。スコアレスの均衡を崩したのは讃岐だった。木島が入ることによって前線に“タメ”が生まれ、木島が起点となってのゴールだった。木島の登場はプレーの面ではもちろんの事、心理的な面も大きい。「木島さんが入ると雰囲気もグッとしまる」とは今季初ゴールを挙げた高橋。“木島良輔”という選手の偉大さ、存在感の大きさを改めて感じた瞬間だった。その後、札幌は１９０ｃｍの丁成勳を投入しパワープレイを試みるも、讃岐は野口遼太を投入して守備の安定を図りゲームセット。讃岐が値千金の勝点３を手に入れた。

サッカーは試合終了のホイッスルが鳴るまで分からない−。この日、香川県立丸亀競技場にいた全ての人が感じたに違いない。いくつもの惜しいシュートを放ちながら決めきれなかった札幌。完全に押されながらもワンチャンスをものにした讃岐。「前半に点が取れなかったのが全て」と金山隼樹が語るように、決めるべき時に決めておかないと勝利を掴めないのがこのリーグだ。

また“最後まで諦めない気持ち”というのも重要。プレビューで触れたが、讃岐は札幌のＤＮＡが流れている。この気持ちも受け継いだものの一つ。前節の福岡戦で札幌は試合終了間際、同点に追いついたではないか。金山が言うように「前を向いて、一戦一戦死に物狂い」で戦えば力のある札幌に勝利はついてくる。そして、ここ３試合で勝点７を得た讃岐。「上のチームとは勝点差があるけど追いつけない数字じゃない。自分たちのサッカーで勝点を積み上げていくだけ」と言う高木和正の言葉通りのプレーをこれからも期待したい。

以上

2014.06.08 Reported by 中條さくら（オフィスひやあつ）