世間のサッカー熱がブラジルワールドカップに注がれようとも、我が町のクラブが戦いを続けるのであれば注視する、それがJ2だ。上昇のきっかけを掴みつつある大分が、同じく手応えを掴みつつある岐阜をホームに迎える一戦。ワールドカップ期間中も休まず続く6月の連戦、そして正念場を迎える夏に向けて、興味深い一戦になりそうだ。
前節の京都戦で「4−3−2−1」にフォーメーションを変更した岐阜は、ラモス瑠偉監督の狙いが的中し、快勝した。チームが勝利したときほど厳しく叱咤する指揮官が、まだまだ成長しないといけないと前置きした上で「勝ってくれたので選手を誉めるしかない」と最大級の賛辞を贈った。きっと。これまでとは異なる確かな手応えを掴んだのだろう。
守備では中央に枚数が増したことで、ボールホルダーに対する寄せが早くなり、囲むようにしてボールを奪取した。元々、球際には厳しいコンタクトを強いるチームがさらなる武器を手に入れ、安定感が増した。攻撃では空いたサイドのスペースを使い、クロスの精度の高い両SBが頻繁に攻撃参加することでダイナミックさとショートパスをつなぐメリハリがリズムをもたらしている。
今季からラモス監督が指揮し、メンバーも大幅に入れ替わり生まれ変わったチームは、シーズン当初の勢いが失せたものの、じわりじわりと熟成されている。その中心にいるのが川口能活や三都主アレサンドロのワールドカップ経験者であり、宮沢正史、高地系治らベテラン勢である。そこにナザリトやヘニキの身体能力の高い外国人選手に、益山司や水野泰輔ら若手が組み込まれ、今季一番いい状態で大分にやってくる。京都戦では巧みなパスと絶妙なポジショニングで勝利に貢献した宮沢は、昨季まで6シーズン所属した古巣に対し、「特別な思いがある。まだ元気にやっているところを結果で見せたい」と闘志を燃やしている。勝てば上位進出に弾みがつくのは承知、鼻息は荒い。
対する大分は、4試合負けなしと結果が出始めたことで自信が深まっている。「センタリングを上げるところまで出来ている」と数人の選手が話したように、チーム全体でボールを運び、組織で崩す意識が統一されている。あとはフィニッシュの部分というのも共通理解の上で認識されている。前節得点を決めた松本昌也は「動き出しのタイミングとゴールの意識」と話せば、チームの舵取り役の末吉隼也は「クロスの入り方を工夫しなければいけない」と、それぞれが課題に対し、明確な意図を持って答えを導き出そうとしている。田坂和昭監督は「最後は個の部分」と選手のアイデアを尊重しながらも、選手にはゴールまでの下書きを記し、完成のイメージを膨らませている。
対岐阜対策においても、何通りかのフォーメーションに対し、ピッチ内で対応し、なおかつ自分たちの良さを出すために選手とシステムを入れ替えることも厭わない。
どんなサッカーをやりたいのか明確に示す両監督の下で、選手が持てる能力を発揮して鮮やかな絵を描くだろう。書き上げた作品がイメージしたものより数段美しいこともあれば、苦労が多かったわりには絵のインパクトは小さく、喜びに欠けることもあるだろう。ただ、楽しいことはいいが、遊びになってはいけない。田坂監督は「何のためにプレーしているのか。我々はJ1に昇格することが目標」と緩んだ空気を厳しく律し、岐阜戦に挑む。それは闘将・ラモス監督も同じである。緊張感のある試合になるはずだ。
以上
2014.06.06 Reported by 柚野真也
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