前節、1-0で5試合ぶりに勝利した栃木・阪倉裕二監督の試合後のコメント。
「試合の内容や普段のトレーニングを考えると、負けたり引き分けたりする試合が悪かったかというとそうではなかったし、今日が格段に良かったかというとそうではなかった。結果は得点によって動きやすい。1点2点を争う競技なのでそれで勝ったり負けたりということになったのかなと思います」。
一部の例外を除けば、J2の幅広い中位グループに位置するチームは、総じてそこそこ手堅い戦いができ、その一方で爆発的な得点力を持ち合わせていない。少しの差が勝敗を際どく分け、結果が内容を反映しない試合も少なくない。阪倉監督の言葉は、山形を含む多くのチームにあてはまる。順位は強さの絶対値をダイレクトに序列化したものではなく、今節で対戦する13位・山形と7位・栃木の勝点差4も、直接対戦するうえで勝敗の行方の参考になるものではない。そのなかでひとつはっきりとした傾向を挙げるならば、先制点がいかに重要であるかということ。山形は今季先制した7試合で5勝2分、栃木は8試合で7勝1分けとともに負けなし。逆に、先制された試合で逆転勝利につなげたことはなく、山形、栃木ともドローに持ち込んだのは2度のみ。
前節・大分戦で0-1と6試合ぶりの敗戦を喫した山形は、シュート数で16対5と上回り、決定機もいくつかつくりながらの無得点。決定力の課題に直面して久しく、1試合平均得点も1.0を割り込んだ。しかし、もどかしさが続くなかで着実に積み重ねてきた部分もある。大分戦の序盤はロングボールを受けてラインを下げさせられたが、ブロックを構えてからの守備では我慢する意識がチーム共通のものとして感じられる。苦手にしてきた自陣でプレッシャーを受ける状況にも慌てることなく回し、そこから何度かロングカウンターにつなげるシーンもあった。敵陣に入り込めば味方のボールホルダーのヘッドアップに合わせた裏への動き出しがあり、その動き出しでできたスペースを次の選手が狙って走り出している。ディエゴは毎試合、決定機に絡みながら決めきれずにいるが、ミスの少ないつなぎのプレーは攻撃の中核として。いまだ連勝がなくその歩みは遅々として見えるが、メンバーをほぼ固定してきたこともあり、チームの機能は試合ごとに確実に高まっている。
ここまで試合ごとの大きな好不調の波はほとんど見られず、連勝も連敗もない。僅かな差で勝ち・負け・引き分けを繰り返している山形が常勝軌道に乗るためには、その僅かな差に左右されることなく、あらゆる状況でも勝利に結びつけられる真の強さを身につける必要がある。山形にとって今節は、成長を持続できるかどうかの試金石。GK清水健太が前節で負傷し、一定期間の離脱が予想されている。新たにゴールマウスを守るのは兼田亜季重。前節も途中から出場し、紅白戦でも短い時間ながら毎回主力組でプレーしているが、フィールドプレーヤーが清水とともに培ってきた阿吽の呼吸は若干の修正が必要となる。それに加えて、センターバック・西河翔吾も今週のトレーニング中に負傷し、當間建文が昨年まで在籍した古巣と対峙する可能性も高まっている。このところ離脱・復帰がめまぐるしいチーム事情に石崎信弘監督も難しいやり繰りを迫られているが、新たにチャンスをつかむ選手とホームの後押しで連勝へのリスタートを切る。
栃木は第10節以降、今季初の連勝を飾った直後に今季初の連敗を喫し、さらに長崎戦、熊本戦をいずれも1-1のドロー。勝てていない最近4試合でもそれなりに手堅い内容を維持しているが、試合運びの面では先に失点する展開が続いていた。そこへボランチの西澤代志也が累積で出場停止となった前節・北九州戦、選択したのは4-1-4-1。過去にも4-1-4-1でスタートした試合はあったが、そのケースと違っているのは、1ボランチにゲームメークを担う小野寺達也ではなく、高さと強さで相手を潰せる岡根直哉を起用したこと。それに伴い、1トップ・瀬沼優司を軸に5人が敵陣に押し込み、右・山形辰徳、左・鈴木隆雅の攻撃参加も実現。多くの時間で主導権を握りながら戦うことができ、59分に重松健太郎のコーナーキックからドゥドゥがヘディングを決めて勝ちきっている。
「今出る選手の特徴や組み合わせを考えたときに我々の強さが出るのかなと。ただ逆にウィークポイントとして使われる可能性もある」(阪倉監督)。北九州戦では「強さ」の部分をある程度出せたが、1ボランチシステムにはリスクも伴う。その最たるものは1ボランチの両脇のスペースを突かれること。廣瀬浩二や重松健太郎が北九州戦のように気を利かせてスペースを埋める間は大きな問題はないが、山形にはディエゴを中心にバイタルでの起点づくりが巧みな選手が多く、前節以上のケアが必要だ。とは言え、そこをあまり気にし過ぎれば敵陣に人数をかける当初の目的が果たされなくなる。前節も流れのなかからは得点を奪えず、欲しい追加点にも手が届かなかった。前節に続くアウェイでの試合になるが、より長所を押し出して主導権を握れるか。高さで優位に立つセットプレーも含めて敵陣でのプレーを増やし、阪倉監督の47回目の誕生日を勝利で飾りたい。
5日に梅雨入りが発表されたばかりの山形で、キックオフ14時の予想気温は20度前後。気温は涼しいが、それで水をさされるほどこの戦いはやわな熱さではない。
以上
2014.06.06 Reported by 佐藤円
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