試合終了のホイッスルがこだました瞬間、ノエビアスタジアム神戸は割れんばかりの大歓声に包まれた。ピッチではチョン・ウヨンが天を仰ぎ、ペドロ・ジュニオールがしゃがみ込んで喜びを噛み締めた。先制点を決め、決勝点を呼び込んだ森岡亮太は、芝の上で仰向けに倒れ込んだ。
苦しい戦いだった。5点差以上で勝てば自力での決勝トーナメント進出が決まる中で、神戸は開始約43秒に森岡亮太が先制ゴールを決める。この時、神戸・安達亮監督は「キックオフと同時くらいに先制点を入れてくれたので、これは目標としている5点差がいけるんじゃないか」と思ったと言う。スタジアムに詰めかけた神戸サポーターの頭にも同じ感情が沸き起こったかもしれない。だが、前半の途中からゲームの主導権を握ったのは仙台だった。
仙台にとってこの試合は、気持ちの面で難しいものがあった。前節のG大阪戦には勝ったものの、決勝トーナメント進出の可能性がなくなっていたからである。あるのはプロとして負けられないというプライドのみ。仙台・渡邉晋監督はこう話した。
「我々の決勝トーナメント進出は前節で断たれた。だが、我々の意地を見せようと。この神戸で実力を証明してみせようという意気込みでゲームに入った」
気温29度、湿度37%。厳しい気候で両チームの選手たちの足が止まる中、仙台は意地を見せた。
37分。八反田康平のパスを受けたウイルソンがドリブルで中央へ持ち込み強烈なミドルシュートを放ち、ポストに当たってはね返ったボールを藤村慶太が拾って再びミドルシュートを放つ。そのボールは美しい残像を描きながらバーに当たって神戸ゴールへと吸い込まれた。この日がJ1デビューとなった藤村は試合後にこう話した。「ウイルソンが結構シュートを打っていたので、こぼれ球が来るかなと思って予測していた。本当に来てゴールという形で終えられて良かった」。若武者が監督の期待に応えた瞬間だった。
藤村の同点ゴールで完全に流れをつかんだ仙台は、ウイルソンが何度も神戸DFをかいくぐってシュートを放ち、太田吉彰が右サイドを起点にチャンスメイクをくり返した。FW赤嶺真吾は休むことなく前線でボールを追い続ける。神戸のGK山本海人の好セーブもあって追加点こそ奪えなかったものの、前半の途中からは仙台がアウェイの地で実力を見せつける形となった。
45分を過ぎた時点での第7節のスコアは、神戸1−1仙台、鹿島2−0清水、F東京0−1鳥栖。このまま推移すれば、神戸はドローでも決勝トーナメント進出が決まる有利な状況。だが、神戸はあくまで“勝ち”にこだわった。
後半に入っても仙台が押し気味に試合を進めた。両サイドの太田と八反田がボールを収め、そこからドリブルやスルーパスで攻撃のリズムを作り出し、センターバック角田誠からのロングフィードに赤嶺・ウイルソンの2トップが絡み、セカンドボールを仙台が拾って2次、3次攻撃へつなげるような展開。だが、神戸が“意地”の守備で仙台の攻撃を跳ね返し続け、両チームとも追加点が奪えないまま時間だけが過ぎていった。
80分を過ぎた時点で、神戸1−1仙台、鹿島2−0清水、F東京0−2鳥栖という状況。87分頃には神戸の安達監督から引き分けでもいいという指示が選手に伝えられた。この時、DF増川隆洋は「最後の方で引き分けでもいいよと指示が飛んで来て、うまくコントロールしよう」と思ったという。DF茂木弘人も無理にパスをつなごうとせず、リスクを回避するように大きくクリアしだした。そして90分が過ぎる。残り時間はアディショナルタイムの4分間。これを凌げばクラブ初の決勝トーナメント進出が決まる。そんな雰囲気がスタジアム全体を包み込もうとしていた。
そしてドラマが生まれた。橋本英郎のクリアを拾った森岡がドリブルでボールを相手陣地へ持ち込み、3人・4人を交わしながらペナルティーエリア内へ侵入。しっかりと相手DFを引き付けておき、ペドロ・ジュニオールへ絶妙のラストパスを送った。それを「求められていたのは結果」と話すペドロ・ジュニオールが豪快に蹴り込んで劇的な決勝ゴールを決めてみせた。
連戦で疲労が溜まっている中、90分を走りまくった後に、最後の力を振り絞ってアシストを決めた森岡は試合後にこう話した。「引き分けでいいなんて、全く思っていなかった」。
2連敗で始まった神戸のヤマザキナビスコカップ予選リーグは、破竹の4連勝という快進撃で幕を閉じた。いい意味で“諦めのわるい”選手たちのプライドでつかみとったネクストステージへの切符。その行き先はこう記されているに違いない。終着駅:ヤマザキナビスコカップ初制覇。今節の何倍、いや何十倍の歓喜をつかむ戦いは、9月3日から始まる。
以上
2014.06.02 Reported by 白井邦彦
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