「いい試合をしながら勝点3を取れず、応援してくれていた方々に本当に申し訳ない気持ちだった。選手達もそれを感じて最後の最後まで足を止めず、暑い中で頑張ってくれた」。小野剛監督が振り返った通り、まさしく全員でたぐりよせた勝利である。7試合勝ちから遠ざかっている状況で5連敗中の富山を迎えた熊本は、前半の2得点を守り抜いて8試合ぶりの勝点3を獲得。プレーオフ圏6位との勝点差は4のまま変わらないが、順位を12位に上げた。
立ち上がりから勢いは顕著だった。まずは開始40秒、8試合ぶりの先発となった岡本賢明が左をえぐって最初のコーナーキックを得ると、ショートコーナーから澤田崇と片山奨典が絡むパス交換で養父雄仁がクロス、矢野大輔がニアに詰める。3分には富山DF御厨貴文からボールを奪った齊藤和樹が右のスペースへ澤田を走らせるなど、DFラインの背後を狙って2列目が飛び出す形で徐々にペースをつかむ。富山は左の中島翔哉、右の木本敬介とスピードのある両サイドに開いてからのクロスを狙うが、熊本の速い出足に潰されてトップに収まらない展開。27分には三上陽輔のスルーパスを受けた中島が1対1に持ち込んだが、熊本GK畑実に阻まれて決定機をモノにできない。熊本にとっては、畑のこのセーブが流れを再び引き寄せるきっかけになったと言える。
「右サイドで崩してセンタリングというシーンが何度かあって、自分もそこへ入って行けていた。続けていれば必ずチャンスが来ると信じていた」と岡本が話しているが、31分には巻誠一郎が右のスペースでボールを受けて岡本へグラウンダーのクロスを入れる場面を作っており、少しずつ形ができ始めていたのは確か。そして34分、スローインの流れからセカンドボールを拾った橋本拳人がスペースへ浮き球の縦パスを送り、これを受けた養父の折り返しを岡本が合わせ先制。さらに39分にも同じように右サイドを崩し、澤田のマイナスのクロスを養父が決めて2−0。この場面、巻と岡本がニアに入って富山DFを引きつけているのも見逃せない。
後半のポイントは、点を取りに出てくるであろう富山に対し、ラインを高く設定して押し込まれる時間を短くしながら無失点に抑えること、そしてその中でも追加点を取って突き放せるか、ということ。ビハインドを負った富山の安間貴義監督は55分、ボランチのキム ヨングンに代えて國吉貴博を入れ、続いて66分には右サイドバックの高准翼を下げてFW村松知輝を投入、木本を右サイドバックへ移し、中盤を秋本倫孝の1アンカーの形へシフト。これにより前に厚みが出た富山は、前半より高い位置でポイントができるようになっている。しかし熊本の小野監督は60分に岡本に代えて中山雄登、72分には橋本に代え、アカデミー出身でトップチームの公式戦出場第1号となる上村周平を送り出した。これは、「前回の反省を踏まえて、チーム全体でラインを押し上げてボールにアプローチすること、奪ったら回しながら前をうかがうという戦い方」(園田拓也)を徹底するため。Jリーグデビュー戦ながら、対格差で劣る相手に対してもしっかりと身体を寄せてボールを奪い、また広い視野と正確な技術で逆サイドへ展開するなど、落ち着いたプレーで能力の高さを見せた上村も素晴らしかったが、「皆で意識して声をかけながら」(矢野大輔)ラインを上げ下げし、終盤のピンチにも身体を投げ出してシュートブロックに入った藏川洋平と片山も含めた最終ラインの献身的な働きも、勝利を勝ち取れた大きな要因だ。
敗れた富山は6連敗となり最下位に転落。安間監督が「決定機を決める、その差が大きく出ているんじゃないかと思う」と話している通り、決定機自体は作れているしボールを動かして押し込む時間は作った。ただ、失点の仕方や局面での精度と判断、選手同士の連携やそれに必要な意思の疎通などにおいて、昨年までの富山らしさを見せられなかった。首位を走る湘南と対する次節に向け、まずはメンタル面を立て直したい。
熊本は90分の澤田、90分+2の園田、90分+3の齊藤と、終盤に迎えた決定機でダメ押しすることはできなかったものの、小野監督も「全体を通してゲームをコントロールするということに関しては、今までよりも1歩進んでくれた」と手応えを口にする内容。勝てない時期にも下を向くことなく、自分たちを信じることでこれまで続いた引き分けを価値あるものにした。次に臨むは現在4位と好調の北九州。本城では、やらなくてはいけないことがある。
以上
2014.06.01 Reported by 井芹貴志
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