ボックス内を見事に崩したパスワークから養父雄仁のゴールで先制した前節の栃木戦、しかし60分に追いつかれ、熊本はこれで７つめの引き分け。戦績は４勝７分４敗、勝点19の15位となった。ここまでの15試合を振り返ればこの数字は不本意なもので、なかなか勢いをつけて浮上できないもどかしさも確かにある。ただ、勝点で見ればプレーオフ圏の６位・京都とはまだ４差。毎節、順位がめまぐるしく入れ替わる中にあって、勝ちきれていないとは言え少しずつでも勝点を積み上げているからこそでもある。これからはいかに「１」を「３」にしていくか、チームの総力が問われていく。

そうした状況で熊本市水前寺競技場に迎えるのは、現在21位の富山だ。安間貴義監督体制での５年目を迎え、チーム戦術も浸透して躍進するかと思われたシーズンだが、開幕戦で引き分けて以降、６連敗を含む９試合勝ちなしとスタートで出遅れた。10節の松本戦で初勝利を挙げたが、前節は讃岐にＪリーグ初勝利を献上して５連敗と、精神的にも非常に苦しい状況に置かれている。また昨日は、ここまでチームトップ４得点のFW苔口卓也、そしてMFソ ヨンドクの負傷が発表されており、チーム事情も厳しい状態で熊本に乗り込まざるを得ないことになった。
しかしそうした窮地に追い込まれると、チームの一体感が高まってプラスのエネルギーに転換することもよくあること。わずか１勝とは言え、敗れたゲームも１点差の試合が多く、特に今季期限付き移籍で加入した中島翔哉、また昨シーズンから移籍期間を延長した白崎凌兵ら２列目には能力の高い若い選手が揃う。ここまで８得点という数字はリーグで最も少ないがシュートの総数は決して少なくなく（熊本よりも多い）、勢いに乗れば10節松本戦のように立て続けに加点して一気に引き離す力は十分。苔口の離脱や連敗中の状況を受けて先発も変わると思われるが、それによって生まれる新たな変化が攻撃をさらに活性化する可能性もあるだろう。

熊本にとってポイントとなるのは、富山が勢いを持ち始める前にペースを握って優位に試合を運ぶこと、さらにここ数試合で見られる後半のプレッシャーの弛みをいかに回避するかという点だ。
前節の得点場面を振り返り、「DFラインのチェーン（繋がり）を切る動きがうまくできた」と養父は言い、「個々の判断で狙うというよりも、チームとして同じ絵を描いて反応できるようになった」（養父）手応えは確かにある。そうしたベースアップに加え、今週のトレーニングではわずかなコースでも思い切ってシュートを打つ意識を植え付け、チャンスを得点に結ぶ確率を高めることにも取り組んだ。「ゴール前の大胆さや勇気は、繰り返すことで落ち着きと技術ができてくる」と小野剛監督が話すように、判断にも積極性を持って先制点につなげたい。
今週から熊本は夏を思わせるほどに気温が上がり、14時キックオフの試合となれば体力的にもかなり過酷な条件になるのは明らか。そうした中、特に後半に入ってから、前線からのプレッシャーに合わせてラインを押し上げ、コンパクトな陣形を保てるかもこの試合の注目点。そのためには「前で２度追い、３度追いすることで全体を押し上げること」（齊藤和樹）も求められるが、「マイボールの時にもう少し支配して、うまく散らしながら作る時間」（園田拓也）も必要。運動量で負けないことが大前提ではあるが、90分間プレッシャーをかけ続け、ゲームの流れを握り続けることは不可能である以上、押し込まれる時間帯になってもしっかり声をかけあって凌ぎながら、状況を見極めて勝負所で仕掛ける意思の共有が不可欠だ。
「自分たちの時間をできるだけ長くしようという意識で、選手達は取り組んでくれている。ここまで内容的に悪い試合はほとんどない。それは選手達がチームとしてのメンタリティを作ってくれているからだと思います。勝ちきれない試合を勝ちに持っていくために単一の処方箋はありませんが、自分たちのチャンスの回数を増やし、相手のチャンスになる回数を減らしていく、それを続けていくこと」と小野監督。
過去を振り返れば１年目の08年、２年目の09年、そして昨シーズンも、長らく勝利から遠ざかる期間はあった。しかしそのたびに彼らは、その壁を乗り越えている。「今の課題を克服できれば、引き分けを勝ちに変えていくことができると思う」と養父は言う。その１歩を踏み出すゲームにしたい。

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2014.05.30 Reported by 井芹貴志