G大阪はこの試合で引き分け以上の結果を出すことで、予選リーグ突破が決まるはずだった。長谷川健太監督は前節・F東京戦で途中から奏功したように倉田秋をボランチに置き、「入りはもう少しボールを持てると思っていました」と最初から主導権を握ろうとしていた。
しかしこの試合で立ち上がりばかりでなく終始主導権を握ったのは、仙台だった。武井択也が体調不良のために当日にベンチから外れるというアクシデントはあったが、代わってボランチに入った梁勇基が、相方の富田晋伍とともに奪ったボールを適確なタイミングで縦にもサイドにも配球。仙台の選手たちは「なるべく相手陣内でボールを動かして、片方のサイドに引きつけて逆サイドに展開する」という渡邉晋監督のプランに基づく連係を勝負どころで繰り出し、試合を支配した。
思うようにボールを回せなかったG大阪は早くも43分にリンスをボランチの岡崎建哉に代え、倉田をFWに上げた。しかし宇佐美貴史の個人技以外になかなかチャンスの糸口がつかめず。東口順昭の好セーブなど守備陣の奮闘により0-0で折り返したものの、流れを引き寄せることはできなかった。
これに対して「前半はスペースがなくて厳しかったけれど、後半は徐々にスペースが空いてきたので、相手の間でボールを受けることができた」とは佐々木勇人。前半以上に仙台がサイドからG大阪を押しこんだなかで、スペースを突く場面が増えた。元G大阪の彼には「“古巣対決”で、気持ちから負けたくなかった」という意地もあった。
そして均衡が66分に、仙台のねらいどおりのかたちから崩れた。梁からのパスを受けた左サイドバック・二見宏志がファーサイドにクロスを送ると、右サイドバックの菅井直樹が「『何とか入ってくれ』という気持ちで」折り返す。そこに赤嶺真吾が低空ヘッドで飛びこんで、先制点を決めた。仙台はこのあとも70分に赤嶺が中央に抜け出したり75分に佐々木が遠目から狙ったりとチャンスを作り、途中出場の八反田康平や鈴木規郎もシュートチャンスを作った。G大阪がカウンターからチャンスを作っても、守備陣が体を寄せて食い止めた。
そしてリードを続けた仙台は、勝利とともに待っていたことがあった。背番号29、上本大海の帰還である。2012年のJ1第31節にて右膝に大けがを負った彼が、その時以来のユアテックスタジアム仙台のピッチに90+2分に戻ってきた。試合前から「焦らず治せ。ピッチに立つ日を待ってた」という横断幕を出していたサポーターたちは大きな「大海」コールで上本を迎え入れた。その上本が頭でクリアをしたところで、試合終了のホイッスルが鳴った。
「お世話になったすべての人に恩返しをしたかった」という上本は囲み会見を終えると、次の順番の赤嶺を見て「後輩(※注:赤嶺は上本の鹿児島実業高校における後輩)にお礼を言うのを忘れていた!」とおどけた。それを受けた赤嶺は、長いリハビリのなかでも明るく仲間を励ましていた上本について「そういう選手が復帰してひとつになれた」。
仙台にとっては遅れてきた今大会の初勝利だったが、準々決勝進出の可能性が消えた後にも気持ちのこもった内容と結果をホームで披露。記憶に強く残る一戦がまた増えた。
以上
2014.05.29 Reported by 板垣晴朗
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