「福岡よりは僕たちの方が気持ちのこもった試合をしていたと思うし、チャンスもたくさん作っていた。そこが勝敗を分けた」(中島裕希・山形)。
アビスパの選手、チームスタッフ、クラブフロント、職員、そしてアビスパに関わる人たちにとっては屈辱的な言葉だが、それを否定する材料が見つからない。自分たちの持ち味である高い位置からのプレスをかけることもなく、生命線である運動量は出足で後れ、スピードで後れ、そして量でも劣った。点差は1点。終了間際にはパワープレーに出て、山形をゴール前に釘づけにする時間も作った。しかし、全体を見渡せば、90分間にわたって試合をコントロールしていたのは山形。福岡の完敗だった。単純な力の比較なら、おそらく五分と五分。だが、両チームの間に埋められないほどの差を感じたのは1人や、2人ではないだろう。
この日のファーストシュートは福岡の坂田大輔。開始5分に生まれたシュートシーンを見る限り、福岡の立ち上がりは上々のようにも見えた。しかし7分に生まれた山形の決定機に、この日の福岡のプレーが象徴されていた。ボールを回す山形に対してプレスに行かず、山形の2人目、3人目の動きを全く見ることもない。ただ、ボールにつられて引き出され、相手へのマークが曖昧になり、すべてのアクションが後手。しかも選手同士が連動しない。そして、この決定機を境にして山形がゲームを支配していく。
その流れのままに先制点が生まれたのは12分。ディエゴのスルーパスに反応した中島が最終ラインの裏へ飛び出すと、GK神山竜一との1対1の場面から冷静にゴールに流し込んだ。
ここからは山形がゲームをコントロール。出足の鋭さ、球際の強さ、運動量で福岡を上回り、セカンドボールの大半を支配する。守っては、整備された守備ブロックを敷いて福岡の侵入を許さず、ボールを奪うと素早く「守」から「攻」へ切り替えて福岡ゴールを目指す。
一方の福岡は「らしさ」を全く表現することができない。自分たちの生命線であるプレスが全くかからないばかりか、チームとして最も大事にしていた運動量も上がらない。戦術云々を言う前に、自分たちのサッカーの原点とも言える部分がおろそかになっていては、それも無理からぬことだった。
後半になっても流れは変わらない。山形がチャンスを作りながらも決めきれないこともあってスコアは動かないが、福岡が全くサッカーにならないのは前半と同じ。時折、石津大介がドリブルを仕掛けても、そのサポートがなく、周りも動き出さず、チャンスの芽は広がらない。4分間のアディショナルタイムには、イ グァンソンを前線に上げてパワープレーに出るが、結局、それも功を奏さずに試合終了のホイッスルを聞いた。
これで福岡は2連敗。しかし、その内容は連敗以上にチームが深刻であることが窺われるものだった。マリヤン プシュニク監督が就任してから2年目。今シーズンも15試合を消化してもなお、「福岡らしさ」が表現できない。それどころか、この日は何を目的に戦っているのか、何をしようとしているのかさえ感じることができなかった。誰もが必死に戦っている。クラブ、チームスタッフ、選手、それぞれが、少しでも前に進もうとしていることは間違いない。しかし、チームに漂う閉塞感は、この日も消えなかった。自分たちは何を求め、何を表現しようとしているのか。改めて全員の意思を統一する必要があるのではないか。そんな印象を受けた試合だった。
そして山形。90分間に渡ってゲームをコントロールした試合は完勝と言っていい。整えられた守備組織をベースに、しっかりとボールを動かしてゴールを目指すサッカーは、決して派手ではないが、しっかりと鍛えられていることが窺える内容だった。課題はやはり決定力のところ。この日の内容であれば2点、3点は欲しかっただろう。しかし、チームのベースは出来上がっている。3戦引き分けと勝ちきれない日々を過ごしたが、上昇気流に乗りそうな気配を漂わせてレベルファイブスタジアムを後にした。
以上
2014.05.25 Reported by 中倉一志
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