チームとして積み上げてきたものに大きな差はないが、その質における隔たりが勝敗を分けた。初対戦となる名古屋と徳島は互いに意図のある攻防を重ね、結果2-1という拮抗したスコアで90分を終えたが、内容面でいえば名古屋がほぼ完勝。徳島は先制点を奪うまでがハイライトで、その後は名古屋がボールを支配し、ゲームを操った。
勝利のためには確かな準備も重要だが、それを表現する力も必要だということを証明する試合だった。徳島は前節から11人すべてを入れ替える大胆な布陣で名古屋に乗り込んできていたが、そのメンバーで勝利するための策を練り、立ち上がりからそれを実行した。李栄直、青山隼、木下淑晶の3バックの両脇には常に木暮大器と那須川将大がポジションをとる5バックで相手のアタッキングサードのスペースを消し、中盤4人を含めた分厚い守備ブロックを形成。攻撃は1トップのキム ジョンミンを起点に速い攻撃が狙い目。これには小林伸二監督も振り返ったように名古屋も攻めあぐね、14分と15分の決定機を決めきれなかったことで流れは徳島に傾いた。
そして名古屋がいわゆる攻め疲れのような状態で展開が落ち着き出した頃、徳島が試合を動かす。まずは中盤でのボール奪取から花井聖が素早くスルーパスを前線へ送ると、抜け出した津田知宏が楢崎正剛との1対1に持ち込む。ここは「裏は取れたが最後にデカい壁があった」(津田)と決められなかったが、こぼれ球を拾った二次攻撃からのクロスをキムが頭で合わせて先制点を奪ってみせた。
だが、徳島の見せ場はここまで。「勝負の分かれ目のところはわかっていると思うが、もう一つできない」と徳島の小林監督はうなだれた。1-0となった数十秒後に、名古屋が追いついたからだ。まさに失点後のキックオフからの攻撃で、玉田圭司が中心となった美しいゴールが生まれる。28分、玉田が田口泰士とパス交換をしたところからそれは始まった。「泰士がリターンパスをくれたから、生まれたゴール」(玉田)。素早いワンツーから永井謙佑に渡ったボールはダイレクトで最前線にいた矢田旭の元へ。矢田が一瞬のためを作ってDFラインの間にパスを通すと、そこには起点となった玉田が走り込んでいた。追いすがるDFと迫りくるGKを冷静に見極め、左足で流し込む。本人も「チームとしての同じ意図をもったゴールというのはオレも好きだし、良いゴールだったと思う」と胸を張るゴールで、試合は簡単に振り出しに戻された。
それでも前半は1-1のまま終了。しかし後半は、名古屋が電光石火の早業で試合を決めた。西野朗監督は前半で二度相手と交錯し、消耗も激しかった矢野貴章に代え田鍋陵太を久々にサイドバックの位置で起用。これが大当たりする。田鍋はファーストタッチで迎えた1対1を自慢のスピードで制すると、「ズミさん(小川佳純)は最初は遠くにいたんですけど、入ってくると思って」と柔らかいクロスを中央へ。その意図を汲んだ小川が低空のダイビングヘッドで流し込み、あっという間に逆転に成功した。サイドバックのポジションを争う若手の強烈なアピールには「『最初のワンプレーをアグレッシブに入れ』という指示に対して、あのような形で期待に応えてくれた」と指揮官も満足げ。その後の展開は、これまでの反省を活かした実に落ち着いたものだった。
このところ好調を維持し、この日も効果的なパスさばきを見せたボランチの田口はこう語る。
「スコアが2-1になっても相手は前から来なかったし、自分たちが焦って前に行ってカウンター喰らうよりは、別に来ないなら回していればいいんじゃない?って感じでトゥさん(闘莉王)とも話していた」。
西野監督の志向は攻め抜くサッカーだが、その意識が仇となりカウンターでピンチを招くこともあった。しかし名古屋の選手たちはその場で判断し、試合をコントロールすることを選んだ。西野監督も以前からリスク回避のゲームメイクについては口酸っぱく選手たちに説いており、ゲームメイカーである田口がそれに応えた形だ。71分頃からは監督の指示で3バックに布陣を変更。牟田雄祐、田中マルクス闘莉王、本多勇喜の3人でカウンターに対応しつつ、サイドで高い位置を取らせた右の田鍋と左の矢田のドリブル突破で徳島のDFラインをけん制するなど効果的な攻撃も披露した。贅沢を言うならば追加点が欲しかったが、76分の永井の単独突破や81分のFKからの闘莉王のヒールシュート、そして83分の闘莉王と松田力の波状攻撃など決定機自体は作っていた。徳島のシュート数が後半3本、その内これといった決定機がなかったことを思えば、後半の45分は完全に名古屋が制圧したと言えた。意図したことを意図通りに表現することができたのは名古屋で、それはつまり勝利に足るだけのプレーと言えた。
これで名古屋は今季初めて豊田スタジアムで勝利した。リーグ5戦5敗の嫌なムードを、ようやく掻き消した格好だ。大宮戦に続く連勝でヤマザキナビスコカップの予選Bグループ内の順位も4位に浮上。決勝トーナメントも視野に入ってきた。次週は水曜日に3位の柏と、そして日曜日に2位の浦和と対戦というわかりやすい構図も勢いを加速する。勝てば順位がひっくり返るからだ。その点では、疲労がピークに達するこの時期に、田鍋や矢田、ダニルソンら控えに回ることが多かったメンバーが素晴らしい仕事をしたことは大きい。「このような状況だからこそ、フィジカル的な部分を組織で補うための戦術的な共通理解を持って戦う必要がある」と西野監督は語っており、中3日で迎える柏戦もほぼ今節同様のメンバーで臨むことは必至。相手が違うとはいえ、抜け目なく逆転勝利を得たイメージの共有は次戦への追い風としてこの上ないものだ。相次ぐ負傷者に悩まされ、リーグでは不安定な戦いを続けてきた名古屋だが、ここに来て急浮上の兆しが見えてきた。
以上
2014.05.25 Reported by 今井雄一朗
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