肌寒い強風の吹いたナイトゲームだったが、松本のホームゲームでは今季最多となる15,597人の歓声が木霊し、夜のアルウィンは熱を帯びた。
事前練習を非公開で行い、情報をシャットアウト。3バックの可能性も示唆していたシャムスカ監督だったが、蓋を開けてみれば「正直、最初から4バックでやると決めていた」とこれまでどおりの4−2−3−1を採用。お互いに慣れ親しんだ形での“真っ向勝負”となった。
先制点をどちらが得るか――。勝負を左右するひとつのポイントと思われたが、その瞬間は予想よりも遥かに早く訪れた。開始3分、左サイドの岩沼俊介をクロスを塩沢勝吾が頭でディフェンスライン後方に逸らし、そのタイミングで飛び出したのが船山貴之。八田直樹との1対1も慌てることなく押し込み、磐田ゴールネットを揺らす。
追加点は30分。ストロングポイントのセットプレーだ。岩上祐三のスローインからの田中隼磨がゴール前にクロス、船山そして犬飼智也が頭で繋いだボールに素早く反応して滑り込んだのは前線に上がっていた飯田真輝。FW顔負けの嗅覚を発揮し、隙を逃さなかった。これで2点差に突き放す。
それでも個人能力の高さで、一瞬で好機を作り出すのは磐田。松井大輔は胃腸炎を患いベンチ入りも果たしていないが、その代役として右サイドで起用されたペク ソンドンがキレのあるドリブルを見せその不在を感じさせない。各選手、足元の上手さ、懐の深さはさすがと唸らされた。キープ力が高く、早めのチェイシングもかわされてしまう場面も見られたが、松本はチーム全体で守備意識を共有しており、一人目がかわされても二人目がチェイシング。或いはかわされても二度追い、三度追いすることで自由を奪った。ひやりとする場面も皆無だったわけではないが、松本にとってはほぼ理想的な展開で前半を折り返した。
エンドが替わった後半も、そのスタイルが変わることはなかった。ゴール前ではこの日活躍を見せた村山智彦を中心に最終ラインが身体を張って防ぎ、チャンスがあれば前がかりの磐田守備陣の裏へとボールを通す。前半の負傷で岩間雄大に替わって投入されたユン ソンヨルも中盤で攻守のスイッチの切り替え役として機能した。誰が出ても変わることのない“松本らしいサッカー”を徹頭徹尾、この大舞台で演じきって見せた。
こうなると磐田も攻撃へ舵を切らざるを得ない。65分、シャムスカ監督は金園英学と山崎亮平を投入。フォーメーションを4−4−2に変更し、前線の枚数を増やす。バイタルエリアをケアするのがフェルジナンド一人となったが、確かに前への推進力は高まった。しかし、松本守備陣がゴールは阻止。78分の“ポポキャノン”もバー直撃で、あとわずかでゴールネットを揺らすことができずに時が過ぎた。
磐田が底力を見せたのは、後半アディショナルタイムに突入してからだった。90分+5、山崎が左サイドをドリブルで突破しクロスを上げると、中央で待ち構えていた前田遼一がトラップして右足で押し込む。これで1点差。さらにラストワンプレー、同様に左サイドからクロスを上げたが木下高彰のヘディングはバーの上を通り過ぎて行った。
直後、主審の長い笛が鳴った。死力を尽くした両チームの幾人かの選手たちはその瞬間、ピッチ上に倒れ込む。まさに“上位対決”に相応しい一戦、火花散る攻防を随所に見せたが、より自分たちのサッカーを貫き通した松本が勝点3を手中に収めた。
以上
2014.05.25 Reported by 多岐太宿
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