今季初めての開催となった水前寺競技場は試合前から好天に恵まれた。公式記録に記されたキックオフ時の気温は24.8℃と、前節湘南戦の25.6℃よりやや低い。ただ14時の段階ではまだ日が高く、スタンドが低いスタジアムの構造も関係してピッチ上に日陰になるエリアはないため、選手達の体感としては実際の気温よりも高かったろう。「今までは比較的、前線からプレッシャーをかけあうゲームが続いてきたが、しっかりゴール前を固めてブロックを作り、そこからカウンターを狙う相手の術中にはまらないようにしながら攻撃を仕掛けるのが、今日のゲームの一番のポイントだった」と小野剛監督が話したゲームプランも含め、気象条件も頭に入れたうえでお互いに探り合うように始まったゲームだった。
東京Vにとって少し誤算だったのは、思いのほか風が――特に前半を戦ったメインスタンドから見て左から右に攻めるエンドでは、正面から吹いてくる風向きで――強かったこと。熊本がカウンターを打たせないリスクマネジメントを意識していたこともあるが、これによって背後を狙う長いボールは戻される場面もあり、常盤聡と菅嶋弘希にボールが収まらないことで強みであるスピードを生かした攻撃をうまく発揮することができなかった。一方の熊本も、ブロックを作った相手の間にうまく縦パスをつけられないでいたが、30分過ぎからは逆のスペースを狙う大きなサイドチェンジを入れることで、東京Vの守備陣形を動かし始める。そうして得た39分の右コーナーキック、中山雄登からのショートコーナーを受けた藏川洋平がクロスを入れ、養父雄仁がつないで最後は齊藤和樹が押し込んだがオフサイドで得点にはならず、43分にはカウンターで抜け出した齊藤のラストパスに橋本拳人が詰めたが早い寄せで囲まれてシュートに持ち込めない。前半に放った6本のシュートはいずれもゴールに結べなかった。
「せっかくいい形で奪ったボールが、彼の得意な繋ぎでミスが起きていて、この暑さの中で戦うフィジカル、メンタルでウィークに感じた」という三浦泰年監督が姜成浩から吉野恭平に、熊本も「前線で起点ができる時間が増える」こと、また「コンディションとゲーム状況を含めて」(小野監督)、仲間隼斗を下げて岡本賢明と、ともに1枚ずつカードを切って迎えた後半。東京Vが風上から攻める形になったが、前半の消耗と、「相手は一番危ない所に人数を割いて守りたい、それをどう引っ張り出すか、引っ張り出す動きと中に入れる動きをミックスさせる」という小野監督の指示を受けたボールの動かし方の変化によって、熊本がペースを掴んでいく。具体的には、「相手が中を固めたところに無理矢理ボールを入れて」(小野監督)いた前半を受け、高い位置を取っている安西幸輝と安在和樹の両サイドバックの裏に起点を作りながら、そこへセンターバックが出てくることで生じるスペース、あるいは後ろ向きにさせてからの背後を突くこと。この交代策で特に岡本が入った左サイドが活性化したが、三浦監督はすかさず中後雅喜を投入、中後と田村直也、そして吉野で3ボランチのような形にし、安西を1列下げてこれに対応。熊本は76分、中山から巻誠一郎に代え、サイドでできるポイントを生かしてゴール前で勝負する場面を増やしにかかるが、結局後半のシュート数は前半を下回る3本に留まり、東京Vのゴールを割ることはできなかった。
東京Vにとっては、移動の負担や暑さ、そしてゲームの内容も考えれば、アウェイで勝点1を得たことは前向きに捉えられる結果。しかし三浦監督をはじめ選手達の口からは特に攻撃面に関しての課題が聞かれたように、ゴールへ向かう本来の姿勢は確かに、少々物足りなかった。ただいずれも10代の安西と安在、そして2試合連続の先発となった菅嶋と、若い選手が思い切ってプレーできているのは明るい兆し。3試合連続の無失点と守備が安定してきたことも含め、今後さらに勝点を伸ばしていきそうだ。
熊本はこれで今季6つめの引き分け。4試合連続ドローから6試合勝利のない状態で、結果だけを見ればリーグ戦中盤を前に停滞してきた感も否めない。たとえば後半立ち上がり50分に澤田崇が抜け出した場面と、終了間際の90分、齊藤からのファーまで届いたクロスに巻が詰めた場面、どちらかが決まっていればもちろん、勝点3を手にできていた。「単発になってしまった時間があったので、後ろで時間を作るやり方もあったかなと思う」と橋本が話したように、最後の精度以外にも課題はある。とは言え、ブロックを作る相手に対し、ボールを動かしながら徐々にチャンスを作れるようになってきたこと、そして小野監督が述べた守備の成果にも目を向けたい。結果はついてきていないが、内容は確実に上向いている。焦れずに信じて続けることが、結果を引き寄せるカギだ。
以上
2014.05.19 Reported by 井芹貴志
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