相手に先制され、リードを許したまま後半を迎えたのは今季初めてのことだった――という事実を開幕から2ヶ月余りも経って記せることが得難い。前節のアウェイ熊本戦、湘南は相手のロングボール攻勢から16分に失点し、0−1で前半を折り返した。付け加えれば、先制点を喫したのは第9節横浜FC戦以来、今季2度目のことだった。
だが、「焦りはなかった」と選手たちが口々に振り返ったように、湘南はスコアの劣勢を着実に覆した。後半開始早々、ボールを速く動かした先で菊池大介が決めて狼煙を上げると、大槻周平とウェリントンも続き、3点を奪って逆転した。思えば、失点して間もなく流れを引き寄せたとおり、狼煙の種は前半のうちからすでに萌していた。指揮官はハーフタイム、「ペナルティエリアではパスではない。シュートだ」選手たちの背中を押した。果たして彼らは潔く枠を狙い、ゴールを重ねたのだった。
パスの本数は通常より約150本多く、成功率も高かったと聞く。それらは、彼らが敵陣で相手を揺さぶったことを指し示す。指揮官の働きかけのもと、ゴールを奪うために何が必要かを考えてプレーすることをチームとして取り組み続けている、その体現に他ならない。「以前なら失点してから愚直に縦ばかりを狙っていた」という曹貴裁監督の述懐は過去の否定ではなく、段階を踏むことの必要とかつてがあってこその現在を物語る。すなわち、深化だ。
熊本戦は走力でも上回り、チャンスもほとんど与えなかった。しかし、常と変わらず自省が口をつく彼らである。たとえば、右のワイドで先発した宇佐美宏和は語っている。
「自分が出ているときに先制点を取られたら絶対アカンし、引いた相手に対して自分のところで崩せてない。ボールを失う場面もありました。引かれたときに自分がどれだけできるか、課題が浮き彫りになったと思います」
あるいはGK秋元陽太は、「もっとはっきりコーチングすべきだった」と失点シーンを振り返り、改善を誓った。同点ゴールで攻勢を加速させた菊池にしても、「今日の自分のいい仕事はゴールだけ」と手厳しい。「次に向けていい準備をしたい」それぞれに課題を自覚した。
今節迎える福岡は、勝点19で現在10位、混戦模様の上位争いの渦中にある。ゴールデンウィークのホーム連戦では北九州と大分に敗れたが、続くアウェイ岡山戦で粘り強く勝点1を掴むと、前節はホームに富山を迎え、2−1で勝利した。
坂田大輔や石津大介、前節は右サイドバックを務めた城後寿など攻撃陣のタレントは多彩で、得点力は上位陣のなかでも抜けている。反面、守備に課題が見受けられ、前節も相手に決定機を許した場面があった。ただ、裏を返せば、最小限に抑えた失点は最後で体を張るなどして凌いだことを意味しており、今節も粘り強い戦いを展開したい。
湘南もまた自分たちの戦いを志す。あるとき、ふと曹監督が口にした。「『石橋を叩いて渡る』ということわざは、ベルマーレ的には間違っている」。橋は、叩いてから渡るかどうかを考えるのではなく、渡ると決めて渡るべきものだ。サッカーも同様で、リスクを冒すと心に決めてリスク管理すべきだという。さらに指揮官の言をひも解けば、決めるという意識をほんとうに抱いてシュートを撃っているか、なんとなく撃ったシュートは入らない、といった表現にも通じている。「絶対に決めてやるという気持ちだった」前節、逆転ゴールを決めた大槻の胸中がまさしく証明するように。
今節も心底の想いをピッチに映す。彼らが一つひとつのプレーに注ぐ本気を、スタジアムで感じたい。
以上
2014.05.17 Reported by 隈元大吾
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